「ソニーKADOKAWA連合」、アニメ業界に走る激震

ソニーとKADOKAWAの本社ロゴ
ソニーグループから株式取得に向けた意向表明を受けたKADOKAWA。KADOKAWA現役社員からは「ダイナミックすぎて現実味がない」との声も上がる(上写真:今井康一撮影、下写真:尾形文繁撮影)

「これは、なかなかだ……」

あるアニメ会社関係者は、業界の勢力図を塗り替える大型再編の観測報道を前に、言葉を失った。

出版大手のKADOKAWAは11月20日、ソニーグループから同社株取得に向けた初期的意向表明を受領したと発表した。前日の11月19日、ロイター通信など複数のメディアは、ソニーがKADOKAWA買収を検討していると報じていた。

一連の報道やリリースを受け、報道が出る前の11月18日に3045円(終値ベース)だったKADOKAWAの株価は11月25日時点で4465円(同)と、約46%もの上昇を見せている。

KADOKAWAの時価総額は約6000億円。株式の取得比率など協議の詳細について同社の広報は回答を控えたが、仮に完全子会社化を狙う場合、ここ数年の国内エンタメ業界で最大規模のM&Aとなりうる。

関係性は徐々に深まっていた

現在、ソニーはKADOKAWA株を2.1%有する大株主だ。

両社は2021年、ソニーのアニメやコンシューマーゲームのグローバルな展開力とKADOKAWAのコンテンツ力を組み合わせた長期的な関係強化を目的に資本提携。2022年には、ソニーのゲーム子会社であるソニー・インタラクティブエンタテインメントから、KADOKAWA傘下の有力ゲーム会社、フロム・ソフトウェアにも14.0%を出資するなど、徐々に関係性は深まっていた。

ソニーがKADOKAWA買収まで狙うのであれば、世界累計出荷本数2500万本を突破した大ヒットタイトル「エルデンリング」を生み出したフロム・ソフトウェアの存在は、大きな誘因となる。また、ソニーが「注力分野」と明言するアニメの事業戦略においても、KADOKAWAはピタリとはまる“欠けていたピース”だ。

傘下の企業群をみれば、日本のアニメ産業において、ソニーが唯一無二の存在であることは自明だろう。

アニメの企画・製作会社であるアニプレックスは、「鬼滅の刃」を筆頭に数多くの人気アニメをプロデュースしてきた、業界最有力のヒットメーカー。A-1 PicturesやCloverWorksといった有力な制作スタジオも抱える。

ソニーグループの十時裕樹社長
5月の経営方針説明会で、アニメ領域でのIP創出に注力する方針を強調したソニーグループの十時裕樹社長(撮影:尾形文繁)

日本アニメの配信で世界最大級のクランチロールは、200以上の国と地域に1500万人以上の有料会員数を誇る。アニメの企画から制作、配信までのバリューチェーンを超一流の企業群でカバーするソニーに、総合力で右に出るものは見当たらない。

しかしそんなソニーですら、アニメビジネスで足りていない機能がある。IP(知的財産)をつくり出す力だ。

ソニーに枯渇していた機能

IP創出に当たっては、漫画やライトノベルなど電子を含む出版、オリジナルアニメ、ゲームといった選択肢がある。

自社で創出したIPに対して、他社からマルチメディア展開やグッズ化、宣伝利用などの引き合いがあれば、原作使用料というおいしい収入が舞い込んでくる。他社のIP利用で世の中とのタッチポイントが広がれば、原作となったコンテンツにも宣伝効果をもたらすため、エンタメ業界各社はIP創出への意欲を高めてきた。

ソニーにはアニプレックスの「リコリス・リコイル」など、直近でもオリジナルアニメのヒット作は存在する。ただ、アニメやゲームの制作費は年々高騰しており、クオリティを求めると、アニメであれば1クール13話で5億~10億円規模、ゲームに至っては1タイトルあたり数十億~100億円規模の投資も珍しくない。原作ファンを取り込めないオリジナルアニメを連発することは、投資回収リスクの観点からも非現実的だ。