「ゆるい働き方」に不安を感じる若手社員の本心

(写真: Lyo/PIXTA)
働きかた改革による労働時間の短縮やリモートワークの普及、さらに転職や副業の一般化など、ここ10年で日本の労働社会のあり方が劇的に変化し、これまでのキャリア・デザイン理論が通用しなくなっています。
 
本稿では、自分の自由になる時間が増えたのに、なぜか不安を感じる、という人に向けて、リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏の新刊『会社はあなたを育ててくれない』より、自分時間の中で有用な経験を積める時間の使い方について紹介します。
 

労働時間は減り、有給取得率は劇的に上がった

多くの人が、ここ10年ほどの間に私たちの働きかたがガラッと変わったことを感じていると思います。もちろんそれぞれの職場によって違いはあるはずですが、残業時間は大幅に減り、有給取得率も上がり、また、ハラスメントについての意識も過去とは比べものにならないほど根付いているのではないでしょうか。

こうした働きかたの変化は、特に若い社会人に大きく表れています。図1では、若手社員の労働時間と有給休暇の取得率をグラフにしています。

大手企業(従業員1000人以上)の大卒以上・新卒入社1~3年目正規社員の労働時間・有給休暇取得率の推移(大和書房提供)

まず労働時間を見てみると、大手企業の大卒以上の若手社員(入社1~3年目)の平均週労働時間は、2015年の45.3時間から2023年には42.9時間に減少し、週50時間以上働いている(=概ね月40時間以上の残業をしている)若手の割合は、2015年の27.2%から2023年の16.7%へ、4割減となっています。有給休暇取得率については、なんと2015年の45.3%から91.6%へ向上しています。

「時間の余白=心の余白」にリンクしていない

こうした職場環境の変化によって、若い社会人に「労働時間以外の自分の時間が生まれた」ことは明白です。それではその「時間の余白」が私たちの心に余裕を与えてくれているかというと、実はそうではないというのが私の考えです。「時間の余白」が、「心の余白」にリンクしていないのです。

次の図は、新入社員期のストレス実感についての、リクルートワークス研究所の調査結果です。

リクルートワークス研究所、2021大手企業新入社会人の就労状況定量調査」。インターネット調査にて、2021年11月15日~2021年11月22日実施(大和書房提供)

今よりもずっと個人の時間がなかった10年前に比べると、むしろ現代のほうが若手社会人の不安は増しているのです。

なぜ「時間の余白」が「心の余白」につながらないのかというと、「時間の余白」は経験の差を生むからだと私は考えます。時間の余白、つまり会社に拘束されない時間は、どう使おうと自由です。

早く帰宅して新しい知識を得るために勉強をしていてもいい、副業・兼業をしてもいい。いろんな人と会ってもいいし、推し活をしてもいい。もちろん、スマホでゲームをしていても、ボーっとしていてもOKです。

かつての多くの社会人は、企業で長時間働いていたために、経験の機会は平等に与えられていました。仕事に関する努力は労働時間の中だけですればよかった(言い換えれば、以前は「会社が育ててくれた」ということでもあります)のが、今の時代は、何をしてもよい自分の時間の中で努力しなければならなくなったということです。これによって、個人個人のあいだに経験の差が生まれてしまうのです。

会社が若手を育ててくれなくなった現代では、「時間をどう使っていくのか」が、本人の問題として生じてしまっている。これこそが、いまの若い社会人が抱えている不安や焦りの根源だと考えています。