「黙っていれば単純にお客様が減っていくだけで、通信収入自体が落ちていく。ここはもう、撃ち合うところは撃ち合うしかないと思っている」
11月7日に開かれたNTTドコモの決算説明会。前田義晃社長は言葉の端々に、強い覚悟と苦悩をにじませた。
ドコモグループが同日発表した2024年4~9月期決算は、営業収益が2兆9938億円(前年同期比1.6%増)、営業利益が5533億円(同4.7%減)と増収減益だった。
減益の主因は、柱である「コンシューマ通信」だ。昨夏に導入した小容量帯の割安プランにユーザーの移行が進み、平均通信利用単価が低下傾向にあることに加え、新規獲得に向けた量販店での販促強化などに伴う大幅なコスト増が響いた。
決算発表に先立つ9月、ドコモのとある発表が業界に衝撃を与えていた。自社の格安ブランド「ahamo(アハモ)」の料金プランを10月から見直し、データ量20GB(ギガバイト)・月額2970円のプランのデータ量を30GBに増量するというものだ。価格は2970円に据え置き、「実質値下げ」となる。
携帯料金をめぐっては今年に入り、2021年の菅義偉政権下で進んだ大規模な官製値下げの影響が一巡した感があった。ユーザーのデータ利用量増などを背景に、総務省によると、値下げで急落した3大キャリアの平均ARPU(1ユーザー当たりの平均売上高)は2023年度時点で上昇基調に転じていた。
国内では足元で物価が上昇する中でも、携帯電話料金は依然として低水準が続く。ただ、政府からの値下げ圧力に晒されてきたキャリアにとって、ここにきて値上げ方針に転じるのも難しく、しばらく各社の均衡状態は揺るがないとみられていた。
そんな中でドコモがプランを見直したのは、利用者の解約を抑えるためだ。データ利用の多い若年層が主であるアハモは、既存の20GBでは容量が不足するとの声が高まっていた。前田社長は「10月はアハモ30GBがポートアウト(解約)抑止にかなり効いた。MNP(電話番号を変えずにキャリアを乗り換えられる制度)でポートイン(新規契約)も大きく増えた」と手応えを口にした。
直近では、販促活動へのテコ入れも際立つ。ドコモは近年、オンライン契約の普及などを受け、実店舗であるキャリアショップの規模縮小を続けてきた。しかし販売代理店関係者によると、足元では顧客接点に強みを持つ店舗を再重視する方針に転換したという。「ドコモからは、契約者の純増に向け、他社からの獲得を重視してほしいといった要望がきている」(同関係者)。
決算で減益になりながらも販促を強化した成果は、実際に現れてきている。ドコモの10月のMNPでの契約増は想定を上回り、解約率も0.6%と低水準で推移。とくに、販売員を強化した量販店では若年層に訴求し、契約獲得(8月)は4月比で1.5倍になったという。大容量プランへの移行推進策も奏功して、下落傾向にあったARPUも下げ止まりつつある。
競合する通信キャリアの幹部は「9月以降、ドコモがかなり営業を強化している。とくに足元では、ドコモの動きが活発になった影響が出ている」と警戒する。前田社長は「顧客基盤強化に向けた取り組みについて、確かな手応えを感じる。下期に向けてもさらに強化、拡大する」と強調した。
そもそもドコモはなぜ今、ここまで必死になって顧客の獲得に取り組んでいるのか。その背景には、ドコモがこの数年、本業で大きく苦戦してきたことがある。