ドコモは2020年12月にNTTの完全子会社になって以降、傘下にNTTコミュニケーションズ(コム)、NTTコムウェアを置く大規模グループ再編を進めてきた。コムに法人事業を集約して営業体制を効率化し、金融事業でもマネックス証券子会社化などを通じ、規模拡大を図った。
グループ全体では堅調に成長していたものの、その裏では、本業であるはずのコンシューマ通信で苦境に陥っていた。官製値下げの影響でARPUが低下し、業績が大きく下押しされただけでなく、競合他社にシェアを奪われる状態が続いた。
その反面、販売代理店の整理など、顧客基盤縮小につながりうるコスト削減策を通じて、利益を底上げしようとするような姿勢も目立った。NTTの島田明社長は9月の投資家向け説明会で、「ドコモは利益を優先し過ぎて、シェアを落としてきた」と振り返った。
総務省によると、ドコモの市場シェアは2020年3月時点で37.7%だったが、2024年3月には34.5%まで低下している。シェア低下の一因として挙げられるのが、昨年までドコモが競合他社の展開する格安の小容量帯プランを持っていなかったことだ。
格安の小容量帯プランの導入は、キャリアから通信回線を借りて事業を展開するMVNO(格安スマホ業者)への打撃が懸念され、「最大手のキャリアとして、MVNOを潰さないため」(複数の業界関係者)に、ドコモは慎重だったとされる。しかし結果として、ドコモはサブブランドで低容量帯の格安料金プランを持つ競合他社に競争力で劣後し、ソフトバンクのワイモバイルやKDDIのUQモバイルへの流出が続いた。
耐えきれなくなったドコモは2023年7月、対抗策として、小容量・低価格を志向するユーザー向けの新プラン「irumo(イルモ)」を開始した。ただ、ドコモにとってイルモの導入は、他社への流出抑制に効果がある反面、ARPUの下押し要因になることも意味した。実際、導入後は自社の高価格帯プランからイルモに乗り換えるケースも多いとみられており、減収要因となっている。
コンシューマ通信事業では、競合のKDDIやソフトバンクが官製値下げの影響から脱して上昇軌道に乗せつつあるのに対し、減収傾向から抜け出せないドコモ。ここにきて、後手になった対応のツケが回ってきているようにも見える。
さらにこの間、ドコモは別の大問題にも悩まされていた。「かつては『安心安全』のドコモ」(業界関係者)と信頼されてきた、根幹の通信ネットワークで生じた品質問題だ。
昨年はドコモの通信品質をめぐり、「つながりにくい」といったユーザーの声が相次いだ。通信規格5Gの普及に当たり、競合他社と違って4G向け周波数を5Gに転用する戦略をとらず、5Gのネットワークを「広く薄く」面的に構築しようとしたため、データ利用が集中する都市部の基地局整備が遅れたことなどが原因だった。即座に品質改善に注力してきてはいるものの、ユーザーの信頼を大きく損なった感は否めない。
シェア低下、そして品質問題――。本業で苦しむドコモに対し、業を煮やしたのが親会社であるNTTだ。
NTTの島田社長は8月の決算会見で、「ドコモはずっと顧客基盤を減らしてきた歴史があるが、そろそろ限界だ」と言及。9月の投資家向け説明会でも、「35%は絶対守らないといけないシェアだ。これ以上下がるのははっきり言って、絶対に許しがたい水準で、ここから反転させるのは必達だ」と語気を強めた。前田社長に対して、「コストをかけてでも、顧客基盤は守ってほしい」との要望を伝えているという。
必死で巻き返しを図るドコモを、競合他社も静観しているわけではない。