コンサルタント会社ザ・リミナル・スペースの依頼で「ナイト・クラブ」と呼ばれるプロジェクトのために調査をしていたころ、イノベーターのメラニー・ハワードはイギリスで夜間労働に携わる2つの男性労働者のグループと一緒に時間を過ごした。
一方のグループは食料品店の倉庫で荷物を降ろし、パッケージに詰める作業に従事していた。もう一方のグループは鉄道会社に勤務し、レールや信号機の故傷を修理した。
どちらも労働条件は明らかにかなり厳しかったが、鉄道労働者の心の健康状態は倉庫で働く人々よりずっとよかった。
鉄道労働者は3日続けて夜間勤務だったが、その間彼らは困難な状況にもかかわらずチーム一丸となって働き、食事し、冗談を言い合い、互いに支え合った。真の仕事仲間だったのだ。
倉庫で働いていた人たちはイヤホンで指示を受け取ったので、互いと話す機会がほとんどなかった。休み時間もバラバラで個別に作業した。彼らにコミュニティの認識はなかった。一緒に座ってコーヒーやお茶を飲むこともなかったからだ。
たくさんの人に囲まれながら隠者のように孤独だった。倉庫の労働者の心の健康と睡眠パターンは鉄道労働者のそれより悪く、彼らにとって仕事は給料以外に何の意味もなかった。
これとは対照的に、鉄道労働者は旅客を安全に運ぶための共同作業に参加していることに誇りを感じていた。
私たちが1週間の半分以上を職場で過ごすことを考えれば、職場が友情の生まれる場所であるのはしごく自然なことだ。1960年代に、有名なアメリカの社会学者ジェイムズ・コールマンは、人が職場以外の友人と社交する割合が組織の規模によって決まることを突き止めた。
従業員が90人から150人の小規模な企業や工場では、従業員は職場に友人がいることが多いが、これより大きな企業では職場以外の人と交流することが多い。
ウォーリック大学の社会学者リン・ぺティンガーはある研究で、小売業で働く若い女性は職場に友人がいることが多いことを発見した。それは彼女たちの職場では普段は会えないような人と懇意になれるからだった。
これらの友人のネットワークは仕事の機会を与えてくれるという意味でも重要なので、仕事上の関係の有無にかかわらず緩いつながりがあった。
年長の労働者は家族への責任もあって職場以外では社会的な関係を持たないかもしれないが、職場の友人関係は親密であることが多く、自分自身やパートナー、子どもたちの人生について互いによく知っていた。
大手酒造企業のSABミラーに17年以上勤めたサマンサの経験は、職場における友情の持つ力を証明してくれる。
SABミラーは世界中の職場に出会いの場として「オフィスパブ」を開設し、意図的に社交的な環境を整えた。その結果、同僚たちが終業後に自社の製品を求めて(アルコールでもソフトドリンクでもよかった)そこに集った。
つまり、アルコールが入るから社交が活発になるというより、社交する「機会」が大事だということがわかる。オフィスパブは、同僚ならみな歓迎される「村の広場」のような存在なのだ。
SABミラーがABインベブに買収されて数年経っても、職場の友情は生き残った。SABミラーのフェイスブック・グループは今も盛況で、世界各地の交流会も継続して開かれている。SABミラーのネットワーク(納入業者が含まれることも多い)は健在だ。
(翻訳:鍛原多惠子)