興行収入(以下、興収)約74億円を突破した『キングダム 大将軍の帰還』を筆頭に、『怪盗グルーのミニオン超変身』(42億円)、『インサイド・ヘッド2』(約43億円)、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』(約29億円)、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』(約21億円)など、今年の夏の映画興行も大作映画やアニメが牽引している。
そんな中で映画関係者が「まさかのヒット」と驚くほどの健闘を見せたのが、タレントで女優の渋谷凪咲主演のホラー映画『あのコはだぁれ?』だ。
その話を聞いて実際に渋谷の劇場を訪れてみたが、公開から1カ月以上経っているにもかかわらず、確かに10代の学生と思われる男子グループ、女子グループ、カップルなど若者が多数来場していた。
いったい何が若者の心をとらえたのか。そのヒットの背景を調べてみた(文中の興収は9月1日までに集計/文中の数字は興行通信社、文化通信社、配給調べ)。
『呪怨』シリーズなどで知られる清水崇監督が、本格演技初挑戦となる渋谷凪咲を主演に迎えて撮った同作は、昨年公開されたGENERATIONS from EXILE TRIBE主演のホラー映画『ミンナのウタ』のDNAを引き継ぐホラー作品。
とある夏休み、補習授業を受ける男女5人の教室で、いないはずの“あのコ”が怪奇を巻き起こすさまを描き出す学園ホラーだ。
夏映画の大作がひしめく中、7月19日から全国227館で上映を開始した同作。映画業界の慣習として、興収10億円以上というのがヒットの目安となるが、9月1日までの動員は93万8114人、興収は11億209万6320円を記録。東宝作品、ディズニー作品の強さが目立つ中で、松竹作品である同作がヒットの目安となる興収10億円のラインを突破している。
動員も好調であるため、ファーストランを終えた8月30日以降も、継続して同作の上映を希望した劇場が222館、ほとんどの劇場が続映に名乗りを上げている。
しかも上映時間を早朝ではなく、午後帯、夜帯、レイトショーなど比較的観やすい時間帯で組んでいる劇場も多い。
公開初日から劇場には小学生・中学生・高校生のグループ客、カップルなどをはじめとした10代、20代の若者層がこぞって来場。映画製作者連盟が発表した昨年(令和5年)の映画入場料の平均客単価は1424円だったが、同作の客単価は1174円とかなり低めの数値だ。
現在、ほとんどの映画館の小中高生の学生料金が1000円ということで、この数字からも、学生をはじめとした若者が劇場に足を運んだことが裏付けられる。
まさに夏映画の意外な伏兵として数字を積み重ねた『あのコはだぁれ?』だが、同作の宣伝プロデューサーを務める山崎栞氏も「本作は若者向けの宣伝を意識した」と狙いを明かす。
宣伝のコンセプトは「夏休みに友人グループとお化け屋敷感覚で来場できる映画」ということで、若者層を宣伝のターゲットにすることは最初から決まっていた。