パワハラ問題は一筋縄ではいかないだけに、そもそもパワハラしそうな人材(隠れパワハラ人材)は、あらかじめ組織に入れないのが鉄則。私自身は応募者とのコミュニケーションの中で、少しでも威圧感などの“パワハラ臭”を感じたら、不採用にすることを心がけている。
これはかつて私が働いていた会社での実例だが、あるとき経歴も実績も非の打ち所がないAさん(52歳)という応募者の男性が現れた。
最終選考まで進む段階になったとき、Aさんの経歴書類をたまたま見た人事部のスタッフが「この人、知ってます!」と驚いた表情で言い放った。どうやら前の職場でAさんと一緒に働いていた経験があるらしく、当時からあまりいい噂を聞かなかったと言うのだ。
「Aさんとは別の部署だったんですけど、わりと厳しめのマネジメントをする人で、部下が何人も辞めているって有名だったんですよ」と、苦い表情をするスタッフ。
その一言を聞いて、私はAさんの選考をストップした。部下が何人も辞めている時点で、Aさんはマネジメントに向いていないどころか、問題行動も起こしそうな予感がしたからだ。
いくら優秀な人でも、部下をバタバタと潰されては困る。パワハラしそうな人物の採用を未然に防げてよかったと安堵した実例だった。
このように、かつての職場での評判が巡り巡って、次の転職先にまで及ぶこともある。自身の行いをどこで誰が見ているかわからない。私自身も気を引き締めようと思った出来事でもあった。
限られた選考プロセスで、隠れパワハラ人材を見抜くのは相当困難ではあるのだが、私なりの苦肉の対策方法についてお伝えしようと思う。
まず1つ目の対策として取り入れているのが、「適性検査」だ。中でも、脳科学や統計学に基づいて開発された、「TAL(タル)」という適性検査を活用している。
「TAL」は、ストレス耐性やメンタル疾患発症傾向を測ると同時に、応募者自身の内面の特性を把握・分析できるのが特徴だ。主に以下の項目について分析できる。
この検査は、36問の文章問題(7肢2択)と図形配置問題(1問のみ)で構成されている。出題内容がかなり独創的で、いったい何が正解なのかがわかりにくい。そのため、応募者が事前に対策しづらく、より本人の特性に近い内的傾向をつかめるのがメリットだ。
もちろん、この分析結果だけで応募者がパワハラするかどうかを見抜けるわけではない。だが、仕事で思わぬストレスがかかった時にその人がどういう状況に陥りやすいか、はたまたどういう問題行動を起こしそうか、ある程度の傾向をつかむことはできる。
分析結果でよほど気になる点が見つかった場合は、面接官全員に共有して、その気になる点を面接でも掘り下げる。そして結果の通り、問題行動を起こしそうだと判断したら、不採用にする。
このように、あくまで“選考の補助ツール”の一つとして使うわけだが、応募者の人間性を推し量るうえで役立っているのは間違いない。