XR分野で先行するメタだが、Questシリーズは世界中で累計2000万台以上も販売してきたという強みがある。OSのMeta Horizon OSはまだ開発中でリリースされていないが、Googleと同様にデバイスの選択肢が増えるAndroidのビジネスモデルを踏襲する予定。すでに複数のデバイスメーカーがMeta Horizon OSを採用することを表明している。
アップルVision Proが発表された2023年6月以降、メタはビジネスシーンでも使える機能を矢継ぎ早にQuestに実装してきた。レンズに直射日光が入るとセンサーが焼けてしまうことから屋外では使わないようにと注意を促してきたメタ自ら、現行モデルQuest 3をテラスで使っているシーンの動画をSNSで発信し始めたことからも、屋内で遊ぶためのゲーム機以上の価値があるとアピールしていることがわかる。
また、メタといえばSNSだ。FacebookやInstagramのユーザーアカウントとVR SNSアプリであるHorizon Worldsが連携していることも強いし、世界でもっとも人気のあるVR SNSのVRChatにもログインしやすい。ユーザー数?滞在時間をKPIとするならメタのノウハウが活きてくる。
ビジネスマンと開発者に受け入れられそうなのは?
注目したいのが、iPhone(iOS)対Androidのように、OSのシェア争いが起きるかという点だ。
デバイスとOSの両方を開発する企業にとっては、OSの利用者数確保も重要なミッションとなる。有料アプリを販売するアプリストアからの収益も見込んだ戦略を立てる必要があるためだ。
この点においてはApp Storeを持つアップルと、Google Playを持つGoogleが強いアドバンテージを持つ。前述したように、すでにスマートフォン/タブレット用として高い評価を持つアプリを大量に扱っており、デバイス購入後すぐに自分の求める機能(アプリ)を追加することができるメリットがある。BtoBで必須となる、生産性を高めるアプリも揃っている。
アプリ開発者側から見ても、XRヘッドセットユーザーだけではなくスマートフォン/タブレットのユーザーもターゲットしたアプリを作れば、収益性を高められそうだという期待感がある。
対してメタのMeta Questストアは、ゲームやフィットネスなど個人で楽しめるエンタメ系アプリは豊富で、クオリティも高い。7月にアーリーアクセス版が公開されたゲーム「進撃の巨人VR: Unbreakable」は発売3日目で全世界週間1位となるなどグローバル人気が高く 、数多くのQuestユーザーが調査兵団の一員となって巨人退治に勤しんでいる。
しかしBtoBの分野となると、弱い。デバイスの販売台数は多くともコアユーザーが若年層であることが原因か、現在Meta Questストアで提供されているBtoB向けのアプリは数が少ないし、完成度が低い。Microsoft Word、Excel、PowerPointはまだいいものの、マルチデバイス対応の業務用コミュニケーションアプリであるMicrosoft Meshは操作性が悪く、コマ落ちしているように画面もガタついている。とりあえず作ってみた、そんな習作の雰囲気も感じられる。
Quest 3はAndroid準拠のデバイスゆえにAndroid用アプリの一部が使えるが、Google Playにはアクセスできないためインストールするにはかなりの手間を必要とし、現実的ではない。Androidアプリ、Android XRアプリを開発する企業や開発者を迎え入れ、Meta Horizon OS用アプリとして移植してもらい、Meta Questストアで提供してもらうためのフレームワークを作る必要があるだろう。
豊富なアプリ資産をもとに、ビジネスマンが仕事で活用できる空間コンピューター/OSを作ったアップル。同じ思想を持ちながら、Androidビジネスモデルの利点を活かそうとしているGoogle。そしてホビーパソコンならぬ、ホビー空間コンピューター/OSとしての価値は極めて高いメタ。
どの企業がXR業界を率いていく存在になるかは、当分わからない。しかし今までアップルvsメタの戦いだった舞台にGoogleが参戦することで、競争が激化することは間違いない。