また、過体重と肥満は1日240gの摂取で14%、2型糖尿病は1日200~300gの摂取で10%、高血圧は1日300gの摂取で7%、死亡率も1日600gの摂取で19%、それぞれリスクが低いことがわかりました。
また、世界150カ国以上の研究者が協力して、各国の食習慣と死因に関する医学研究を統合的に分析したところ、日本人の死因への影響の大きい上位3つの食習慣は、①塩分の摂りすぎ ②玄米などの全粒穀物不足 ③フルーツ不足でした。
さらに国立がん研究センターも、がん予防のためにも野菜やフルーツ不足にならないよう積極的に摂ることを勧め、 WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)も、がん・心臓病・糖尿病・肥満の予防のために、フルーツと野菜を毎日合計400g以上食べることを推奨しています。
「フルーツは甘いから糖質が多いだろう」。だから「きっと糖尿病リスクが大きい食品だろう」。なので、「フルーツの食べすぎには注意すべきだ」というのは、科学的根拠のない個人的な意見であり、単なる先入観なのです。
生活習慣病予防効果の高いフルーツですが、2021年の国連食糧機関の統計によれば、各国の国民1人当たりへの1日の供給量(摂取量+廃棄量)について、日本は世界平均の半分しかなく、先進国で断トツ最下位、世界186の国と地域の中で156位でした。日本より少ない国は、アフリカやアジアの発展途上国だけです。
実際、2019年の厚生労働省の統計によると、日本人は平均で、ジャムや果汁などの加工品を含めても、1日に100gもフルーツを食べていません。高齢世代を含め、全世代が国の目標量の200gを大きく下回っています。
下の棒グラフを見れば、30代男性では32gなど、特に20~50代の現役世代の摂取量が顕著に低いことがわかります。また4割近い人がフルーツを食べる習慣自体がなく、200g以上食べる人は18%しかありません。つまり、統計的には8割以上の日本人が「フルーツの食べなさすぎである」と言えます。
平均的な日本人にとっては、フルーツの食べなさ過ぎが問題であることは上述しました。では、健常者についての、1日当たりの食べすぎの研究はあるのでしょうか?
直接ヒトを対象とした医学研究の目的は、主に治療と予防の2つあります。治療は何かの疾患のある方が対象です。また、治療目的では、数日から数週間といった比較的短期間の実験が多いです。
一方で、予防は主に健常者が対象です。ある生活習慣を持つ健常者が、がんや脳卒中などになるリスクを調べたいと思えば、比較のために大人数でかつ、10年、20年といった長期間の研究が必要になります。
科学的な信頼性という意味では、複数のグループに分けたヒトでの「実験」が最も望ましいです。しかし、ある生活習慣を10年も20年も被験者に強要するのは、倫理的にも現実的にも難しいので、1年に1度の健康診断結果を収集するなどのやり方で、定期的な「追跡調査」が行われます。
健常者の予防目的に関する「追跡調査研究」であれば、1日当たりのフルーツの最適量に関する研究は存在しますが、食べすぎについて明らかにした研究は私の知る限りありません。
なぜなら大規模調査では、大量にフルーツを食べる習慣をもつ人自体がとても少ないため、統計的に表れにくいためです。ましてや、ヒトを対象にした、1日当たりのフルーツの食べすぎについて長期間調べた「実験研究」は存在しません。したがって、冒頭の「何グラムくらいから、フルーツの食べすぎになるのか?」という問いに対する回答は、ヒトでの信頼度の高い研究がないため、「わからない」が正解です。