「ハラスメント」が認知されて久しいのですが、実際のケースでは、加害者側に悪意がないことがほとんどです。むしろ上司が「部下のためを思って」話を聞く場面で起きているのだということは、あまり知られていません。
私は、スクールカウンセラーをしており、教育現場にかかわる相談を受けることが多くあります。すると、次のような「二人きり」の場面でハラスメントと思しきことが起きやすいのです。
例えば、小学校で校長と教頭が二人きりで話をしている。校長としては、「教頭の今後を思って」「教頭がよい校長になれるように」と、いろいろアドバイスをしているつもりです。しかし、つい熱が入りすぎて、場合によっては1時間も2時間も話をしてしまう。
教頭は、ただ「はい、はい……」としか言えない。精神的に圧迫されて、ただ否定されたという思いしか残っていません。
また、若手教師に対してベテラン教師が「よかれ」と思って熱心に指導をしている。若手教師としては、ただ「つきあわされている」としか感じていない。そして1時間も経ったところで、「なんだ、くそババア!」とベテランの女性教師にブチ切れて、最悪の関係になってしまう。幼稚園では、園長と主任教諭の間に同様のことが起こりやすいでしょう。
問題は、上の立場の人間が「あなたのためを思って」善意からかかわっていることが、下の立場の人間には、ハラスメントに感じられていることが、ものすごく多いということです。
「善意からかかわることで、相手を不快にしてしまうなら、どうしたらいいんだろう」と、戸惑いを感じる人も少なくないでしょう。
「それなら、もう若手とはかかわらないようにしよう」と思う人もいるでしょう。
実際、今、多くの職場で「30代半ばより若い世代」と「年長世代」との間に、絶望的にさえ思える「隔たり」のジェネレーションギャップが生じているようです。
ハラスメントと感じられる場面には、
①年長者が話している時間が長い
②そもそも、二人での話の時間が長い(30分以上)
③二人きりの密室
という共通点があります。
では、年長者が職場などで、若手と話す場合には、どうすればいいか? この逆をすれば、よいのです。
これをやれば、まずハラスメントになることはありません。気楽に、若手に話しかけましょう。
あなたが年長者で、若手相手に説教したくなっても、そこはグッと我慢し、「あなたはどうしたいの?」と聞きます。自分の話は短く、相手に長く語ってもらうのです。1分間は黙ってうなずきながら聞き続けます。
話を聞くうちに、
「それは、こういうことじゃないかなあ」
「私としては、こう思うけどなあ」
といった一言を伝えたくなるかもしれませんが、それは「余計」です。
そんな一言を伝えたら、相手は、先ほどまで話を聞いてくれていた年長者が、実はこころの中では反対意見をためていたことに気づいて、がっかりします。
もちろん、なんのアドバイスもしてはいけないというわけではありません。
しかし、大方のアドバイスは、9割以上の確率でなんの役にも立ちません。
話した側からすると、「この人はそう思うんだ」と思われて終わりか、「ああ一言、言いたかったんだなあ」と相手に気持ちを見透かされて終わりです。
それでも一言、アドバイスしたいときは、
①あくまで自分の考えとして
②具体的に
③短く、さらりと語ること
そして短く話したら、すぐに相手の話に戻ることです。
最後は、「そうか、わかった」「あなたなら、きっとできると思う」と、相手を勇気づける言葉、信頼と期待のメッセージを伝えて締めくくりましょう。