大高氏が今年のベスト映画とする、マーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、ニューヨーク映画批評家協会賞で作品賞を受賞。スコセッシ監督は『グッドフェローズ』『アイリッシュマン』に続く受賞となり、同賞の80年以上の歴史で、ウィリアム・ワイラー監督とフレッド・ジンネマン監督に続く作品賞を3度受賞した監督となった。
そんな歴史上の2監督と肩を並べたスコセッシ監督の新作でさえ、日本ではまったくヒットしない。
「スティーブン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』、リドリー・スコット監督の『ナポレオン』も含め、巨匠3人がこれまでの実績を踏まえて次のステップに進もうとする、斬新かつ野心的な内容の新作であり、この3本を抜きにしては、今年の洋画は語れない。こういった見応えのある、映画的な魅力と迫力に満ち溢れたアメリカ映画が生まれているにもかかわらず、興収が上がらない」(大高氏)
そこには、歴史を踏まえた重厚な人間ドラマへの世間一般の関心度が下がっていることがある。それによって、映画ヒットのバリエーションがどんどん狭まっている。
大高氏は「若い人の洋画離れは20年以上続いている。加えて、かつて洋画ファンだった年配者も離れつつある。これは今年始まったわけではないが、この状況が続く限り洋画の芽はなかなか出てこない。厳し過ぎる状況だ」と、負のスパイラルから抜け出せない現況に危機感を強める。
スター不在と言われて久しい洋画。宣伝をして情報を届けても関心を持ってもらえない状況をどう打破できるか。このままトーンダウンしていくだけの状況をなんとか変えることはできないのか。
「先に述べた巨匠たちの作品が、アメリカ映画の大きな魅力だということが見えなくなっている。それを伝えなくてはならない映画ジャーナリズムの力も弱まっている。これでは、若い世代の支持が広がるわけがない。この流れは一気には変わらないだろう。突破の道はなかなか険しいのではないか。洋画の危機は、もはや日本の映画市場だけの話ではないからだ」(大高氏)
コロナ禍から年々興収を上げ続け、若い世代向けアニメの100億円超えヒットが年に何本も生まれることで、映画界は活況を呈しているかのように見える。
しかし、その裏側では、ヒットバリエーションが狭まり、本来映画にあるべき多様性が市場から失われる瀬戸際まで追い込まれている現況は見過ごされている。
洋画をはじめ、邦画でも独立系映画会社の単館系作品などの苦境は長年にわたって続き、一部の大作との格差は年々拡大している。アニメの100億円超えヒットが生まれなかった年には、そんな市場の脆さが露呈することだろう。
前年超えをよろこんでばかりはいられない。今年の洋画興行は、日本映画界の危うい一面がどんどん大きくなっていることを突きつけている。
※映画興収は12月13日時点の最終興収推定値