ただ、今年のドラマ映画は数も多く、ヒットしなかった作品も少なくない。結果が両極端に分れた印象だ。
映画ジャーナリストの大高宏雄氏は「観客はおもしろい映画をしっかり選別しており、関心を引かれないものには動かない。この2本の新作は内容が新鮮であり、ストーリーのおもしろさがある。やはりテレビ局製作映画の底力はあなどれない。ドラマ映画は一時期より淘汰されてきているが、1本当たれば続編につなげていけることが強み。それが何本か続くと軸になっていく。『ミステリと言う勿れ』はそうなりそうだ」と期待をかける。
また、今年の邦画実写シーンにおける「興行的かつ映画的事件だった」と大高氏が語るのが、『福田村事件』(2.5億円)のスマッシュヒットだ。作品は、1923年9月1日に発生した関東大震災の5日後に、千葉県福田村で実際に起こった行商団9人の虐殺事件を描く。
「いまに至る日本人の精神構造にも迫る内容は、生半可な覚悟では作れない。『キャタピラー』など若松孝二監督が目指していた映画作りにつながるものがある」(大高氏)
本作は公開日を9月1日にあわせたことで、時事ニュースをはじめとしたメディアパブリシティが大きく機能し、認知を広げることに成功。年配層を大きく動かした。大高氏は「本作のヒットによって地方のミニシアターは非常に勇気づけられた。ミニシアターの閉館が続くなかで、大きな役割を果たした」と力を込める。
邦画実写シーンでもう1つ今年のトピックになるのが『ゴジラ -1.0』だ。劇場上映は続いており、最終興収50億円以上は確実。しかし、『シン・ゴジラ』(82.5億円)には届かなそうだ。
一方、邦画作品として前例のない2000館超えの大規模公開となった北米では、最終興収で2700万ドル以上(40億円以上)を狙える破格のヒットになっている。
すでに邦画実写の歴代全米興収ランキング1位を獲得(2位は1989年『子猫物語』の約1328万ドル)。全世界興収では100億円超えも夢ではないかもしれない。
『ゴジラ -1.0』の北米配給は、東宝が今年7月に設立したTOHO Globalが手がけている。その第1弾となる本作で大きな結果を出した。国際事業の積極展開を進める東宝の海外配給は、これまでとはまた違った展開になるだろう。
映画界全体が本格的に海外市場を視野に入れて動き出しているこれからは、ヒット指標が従来の国内興収から全世界興収を基準とする時代に向かうかもしれない。『ゴジラ -1.0』はその第一歩となる作品として大きな実績を残した。
洋画は依然として厳しい状況が続いている。TOP10では、昨年の『トップガン マーヴェリック』のスーパーヒットに続くトム・クルーズの『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』(54.3億円)の6位のみ。その次は『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(43.1億円)だが、10位圏外になる。
期待されたディズニーの実写版『リトル・マーメイド』は30億円台。近年のディズニーとしては大ヒットだが、かつてのディズニーとしては物足りない。
ディズニー100周年記念作『ウィッシュ』(日本公開12月15日)が、北米興行でまったく振るわない成績になっていることがニュースになっているが、アメリカ・ディズニーCEOのボブ・アイガー氏はこうした不振を受けて、量から質への制作体制の抜本的な再構築を掲げたことが伝えられている。奇しくも100周年の不振が、近年低迷を続けるディズニーの転換点になるようだ。
大高氏は洋画離れが深刻化する昨今の映画界の現状を「かろうじてあったエンタメ大作の力が落ちている」と指摘する。