狂ったように目的だけを見て、成果を残していく人たち。凡人たちが積み上げた小さなプロセスなどはお構いなしに、革命を起こしていく人たち。常識を疑い、世の中を大きく変えていく人たち──。
特別な才能がない人間にとっては、こうした「怪獣人間」の近くにいること自体が価値だ。
僕たち凡人は、川でいうなら「源流」にいる怪獣人間に食い込まなければ、大きな仕事はできない。怪獣人間が「0→1」を生み出す。その「1」が生み出される瞬間に立ち会う。その近くにいることが絶対条件だ。1が100、100が1000になってから参加するのとは価値が違う。
僕は編集者として、新しい企画や売れそうな企画が立ち上がる瞬間に立ち会いたい。
名カメラマンの篠山紀信さんが言っていたのだが、いいカメラマンとは、写真がうまい人ではない。撮るべき人の前でシャッターを押せる人である。いまこの瞬間にも、たとえば大谷翔平の目の前に立てる人は、それほど多くはない。「時代を象徴する人の前に立ってシャッターを押すこと」ができるのが大事なのだ。
これは、クリエイティブな仕事に限らない。「話題の人の横にいること」こそが最も重要なのだ。
それぞれの業界に、圧倒的な才能を持った新人、時代を動かしているスター、誰もが憧れるレジェンドがいるはずだ。そういった怪獣人間たちは源流にいて、半年後、1年先に世の中がアッというものを仕込んでいる。下流にいる多くの人たちは、上から流れてきた薄まったもの、遅れたもので勝負するしかない。そこには、圧倒的な差がある。
スティーブ・ジョブズのような怪獣人間と一緒に仕事をすれば、おそらく死ぬほど大変だ。だけど、めちゃめちゃ大きな仕事になるし、歴史的な仕事になる。「怖いし大変だから、できればそういう人からは離れていたい」と思って、振り回されない安全なところで細かい仕事をするのもありだが、いつもそれでは楽しくない。
大きなビジネスの源流をたどれば、そこに怪獣人間がいる。自分は特別な人間ではないからこそ、怪獣人間と出会い、仕事をする。その立場こそ価値なのだ。
そうした怪獣人間を、いかにして見つけ出すか。
僕は怪獣人間や怪獣人間っぽい人たちを、ざっと30人ぐらい頭の中にずっと入れていて、間接視野でウォッチしている。あの人はあんなことをやっている、この人のこんな話題が盛り上がっている、いま伸び悩んでいる、やりたいことを見失っている、グングン成長している、といったことを絶えずなんとなく意識している。
だから、企画書を書くために調べるというよりも、つねにいろいろな企画が自然に頭の中に浮かんでいる状態だ。遊んでいるときも、四六時中考えているから、一番いいタイミングで「いまだ」とすかさず声をかける。仕事につなげる。
つまり、頭の中が怪獣人間の養殖場みたいになっている。誰かに本を依頼しようとして、その人のことを調べて、そこから企画書を書いて、社内の会議で了承を得てからメールする、みたいなことをしているわけではない。24時間365日、頭の中の怪獣人間と会話をしているのだ。彼らと時代が交錯するのを待っている。