近年、中国では、より良いモノによって生活の質を高める人が増えていますし、多様性や他人との違いを意識し、自分らしさが表現できる商品を買い求める傾向が強くなっています。アイデンティティーやライフスタイル、趣味趣向によって消費のニーズが細分化しています。
ニーズの細分化が進むにつれて、それぞれが新たな消費トレンドとなり、影響力が拡大しています。本稿ではその1つである「養生(健康)消費」を紹介したいです。
日本語としての「養生」は、人が対象となる場合、健康に注意して元気でいられるように努めること、病気の回復に努めることと解釈されています。
一方中国では、食事や運動をはじめ、未病(病気ではないが、健康でもない状態)の改善や寿命延長のための健康増進にかかわる一連の活動を養生と呼びます。それに関する考えや知恵は養生思想となり、その歴史が長いのです。中高年を中心に普段から養生を心がけている人が多く、薬膳料理や漢方などは養生法として古くから親しまれています。
それが近年、養生に対する関心は性別・年齢問わず高まっています。
その背景には生活レベルの改善に伴う健康意識の向上がありますが、さらに新型コロナウイルスの感染拡大以降、養生に気を配り、免疫力アップを図ろうと、食生活の改善や運動、サプリメントの摂取などを実践する人が増えているのです。
ひとくちに養生と言っても多岐にわたりますが、ここではスポーツ関連の動向を中心に取り上げたいと思います。
もともと中国政府は国民の健康促進のため、2016年10月に「健康中国2030計画綱要」を打ち出していました。健康生活の普及や医療サービスの完備、健康関連産業の育成などを推し進め、2030年までに国民の平均寿命を79歳にまで延ばすという目標を掲げています。
そこでオリンピック熱の高まりを活かそうとした中国は、2020年東京夏季オリンピック開催中の2021年8月上旬に「全民健身計画(2021─2025年)」を公布しました。同計画は「健康中国2030計画綱要」の実施版として、国民の健康水準を引き上げ、フィットネスに対する意欲を高めることを目的としています。
具体的には、関連施設の充実をはじめとする一連の取り組みを進め、普段からフィットネスやスポーツをする人口を現在の37.2%から、38.5%以上にまで増やそうとしています。同時に、2025年にスポーツ関連産業規模を5兆元に拡大する目標も明らかになりました。
また、中国政府は2020年から新型コロナウイルス対策の一環として打ち出した「インターネット+スポーツ」を継続的に推し進めると見られます。デジタル技術やアプリを活用した気軽なフィットネスを普及させようとしているのです。こういった政策の後押しもあり、スポーツアプリが成長を遂げています。
2015年にリリースされ、1億人以上のユーザーを抱える運動アプリ「Keep」はその好例です。フィットネス計画の作成や運動データの記録、オンラインレッスンの提供、コミュニティー機能など充実したコンテンツが人気を集めています。同社は今年7月に香港上場を果たし、スポーツテックの代表格となっています。