ところが、その男性が「GOOD&NEW」のワークで、「最近、通勤経路にツバメの巣があるんです」と話しはじめたのです。
男性は、「それをすごくかわいいと思っていて、毎日毎朝そこを通るたびに、あのツバメはいつ巣立つんだろうと思いながら観察している」と話しました。
ご本人はユーモアのつもりは一切なく、まるで仕事のように真面目に話されたのですが、周囲は「えっ、そんな一面を持つ人だったんだ!」とびっくり。真面目な様子が、逆にユニークに見えてきて、親しみを感じ始めたのです。
自己開示をして、ギャップを見せることができれば、勝ちです。本書を読んでも改めてそう思いました。
自己開示の技術はまさにユーモアの技術だと思います。自分がどう見られているかという客観的な印象とかけ離れていればいるほど、自然と面白さがにじみ出てきます。
経営者や上司になると、威厳を保ちたいと思われる方もいらっしゃるでしょう。私は、威厳をなくしてほしいのではなく、「人間らしさ」を見せてほしいと考えています。
それによって、周りの人には、「この人にもこういう一面があるんだな。自分もしっかりして、何かあったときには助けられるようにしよう」と責任感や貢献意欲が増していく効果が起こりやすくなります。
パーフェクトな上司であればあるほど、「あの人は何でもできるから、いざというときは、自分で何とかするんだろう」と思われて、部下から助けを得られない上司になりがちなのです。
ユーモアがあって、人間味もあって、ちょっとクスッとする人であるほど、部下が「この人、この組織のために、自分はどうしていこうか」と考えるスイッチを押していますね。
今求められている人材像は、「自分で考えて行動できる」「考えたプロセスを説明できる」などの要素があります。
それらをうまく機能させていくきっかけとして、上司がユーモアをまじえて、自分の弱さや過去の失敗談、意外なプライベートを自己開示できれば、部下との信頼やコミュニケーション、やる気を生み出すことができるでしょう。
お話ししたような自己開示や、本書に書かれているユーモアは、飲み会の場ではなく、しらふの状態でやるということが大事です。
飲み会は、無礼講で話しやすくなるというケースもありますが、日本の場合、酒の席でのユーモアを、仕事の場で出そうとしても「それはあのときの話だろ」となりがちです。
さらに、昭和の時代とは違って、令和の会社員たちは、あまり飲み会には積極的ではありません。呼ばれても参加しない若者もいます。「時間外」という考え方が、かつてとは変わっているのです。
もちろん飲み会そのものを否定するわけではありませんが、酒の席で話していた上司のちょっと間抜けな話を、ぜひ昼間にしてほしいのです。
変化が大きく速い時代だと言われてきましたが、コロナが契機となって、会社に行かない働き方という変化を感じた人が多かったでしょう。
もうトップが「あなたは明日テレワークで」などいちいち指示するわけにはいかなくなります。それぞれの人が何を考え、何をアウトプットし、それをどうつなげてチームで勝っていくのかの総力戦ができなければなりません。
自分自身がどう考えて行動するかが問われる時代になったのです。
そういう意味でも、現場からトップへのコミュニケーションは、もっとライトな話も含めて、話しやすくする状況を作らなければなりません。
従業員側もまた、「それは部長の仕事、課長の仕事」と考えるのではなく、自分の仕事と捉えて行動する必要があります。
ユーモアを取り入れ、それができるような組織を作っていくことが重要だと言えるでしょう。
(構成:泉美木蘭)