メディアがくどいほど"猛暑"を報じる納得の理由

振り返ると2020年代に入ってから、コロナ禍やウクライナ情勢、さらには凄惨な事件や事故が続くなど、シリアスなニュースが続いてテレビやネット上に影を落としていました。それだけに「猛暑は危機だけど、どこか明るさを感じさせながら報じられるニュース」として扱いやすいものなのでしょう。

猛暑をメディアが扱う理由で忘れてはいけないのが、「数字を作る」というビジネス面。

テレビの情報番組はメインの視聴者層が中高年や主婦のため、天気の話題は最も自然なものとみなされ、複数回ピックアップする構成も見られます。そもそも情報番組における天気関連のコーナーには、古くから「井戸端会議のネタにしてもらおう」という意図がありました。近年の夏は手堅く視聴率を確保するためにも、猛暑の情報が欠かせなくなっているのです。

一方のウェブメディアも、「外出前に気温をチェックする」ほか、「猛暑のニュースは思わず見てしまう」という人を見込んで記事をたびたび配信。情報がシンプルで制作の手間が少ないため、記事制作のうえでコスパがいいジャンルの1つとみなされているようです。

近年のように全国各地が暑くなったことで、もともと話題になりやすかった天気の優先度がさらに上昇。中高年層だけでなく若年層も学校や会社で「暑いね」「昨日よりキツイかも」「その携帯ファンいいね」などと猛暑の話題があいさつ代わりのように語られるケースが増えています。

今なら通勤、夏フェス、高校野球甲子園大会などの是非を論じる人もいますし、ゲリラ豪雨、雷、台風、ひょう、あられなども含めて話す人もいるでしょう。主婦の中には「子どもや親を猛暑から守ろう」という人が多く、テレビやネットで情報収集してアプリやSNSなどで友人と共有する人もいるようです。メディアはそれらの人々に向けて、猛暑という話題のネタを提供しているのでしょう。

「いい身分」「運がいい」の優越感

そして最後にもう1つピックアップしておきたいのが、在宅者の“優越感”狙い。猛暑関連のニュースには、「買い物や犬の散歩など以外は外出しない」という主婦、在宅ワークやリモートワークの人、学校や仕事が休みの人などに「優越感を得てもらおう」という制作意図もあると言われています。

暑そうな人々を見て、「自分はいい身分にいる」「家にいられて運がいい」と感じてもらおう。あるいは、外出しないことや、勉強や仕事をサボっていることへの「仕方がない」という言い訳にしてもらおう。もし何かしらの不満を抱えていたとしても、「あんなに暑い思いをしなくてもいい自分のほうがマシ」と思ってもらおう。

とくに情報番組の制作サイドには、そのような在宅者の優越感をくすぐるような構成で連日の視聴を狙っているところがあります。あなたも情報番組で猛暑関連のニュースを見て、「暑そうだな」と言いながらもニヤリとしてしまったことはないでしょうか。

このところ猛暑関連のニュースが増えているのは、メディアとして危機を呼びかけることや、ビジネスとして数字を上げることだけではありません。「この番組を見ている自分も、ほかの視聴者も涼しいところにいる」という優越感の共有が演出されているのです。

ちなみに現在、情報番組の話題の軸となっているのは、猛暑と大谷翔平選手の2つ。関連性のないことのように見えますが、「涼しい家で見られることの優越感を得てもらおう」という点では共通しているのではないでしょうか。