「登録者数が増えているのは確かですが、では実際に転職している人の数がすごく増えているかというと、そこまで増えているわけではありません。私たちが用意するサービスも多様化していますから、いろいろなキャリアアドバイスが受けられるとか、どういう企業が自分を注目しているかがわかるとか、どういうスキルが買われているかがわかるとか、それを知りたいという人が増えているんです。すぐに転職しよう、というのではなく、自分のキャリア観の棚卸しであるとか、市場価値を探れる、というメリットが求められているという印象があります」
社会変化とキャリア不安に若い世代の気持ちが揺れていることはわかりました。自分がどこに身を置き、どんな経験をすれば成長できるのかを真面目に考える若手が多いことも理解できます。
でも、やはり違和感が残る読者もいるかもしれません。つまり、これから仕事に関してできることを増やして、キャリアを切り開いていこうという若者が、その前に転職を視野に入れて行動する、ということへの違和感です。
キャリア開発の話でよく使われるWILL、CAN、MUSTの枠組みを使って説明しましょう。
会社に入りたての若手は、CAN(できること)がほとんどない状態。入社にあたって人事担当者は「MUST(やるべきこと)に取り組んでCANが増えれば、WILL(やりたいこと)に近づくことができる」などと説明します。
MUSTに取り組み始めたばかりなのに、まだ見えないWILLを求めて転職サイトに登録するのはおかしくはないか?まだCANも身についていないのに。これが違和感の正体です。
もちろん、転職サイトに登録する新人たちも、MUSTをないがしろにしているわけではないでしょう。WILLに思いを馳せながら、MUSTに取り組み、CANを積み上げる日々を送るはず。違和感はひとまず棚に上げて、彼らの不安を軽減し、成長をサポートすることが企業の先輩層には必要でしょう。
企業側も対応を変え始めている一面もあります。オンボーディングという言葉が人事では一般的になりました。これは、同じ船に乗り組む仲間として、研修や1on1などさまざまなコミュニケーション施策によって、きちんとチームに馴染んでもらう、という手法を指します。
また採用が売り手市場となる中で、企業もキャリアのロードマップをはっきり提示せざるを得なくなってもいます。具体的にいうと、どういう人材を募集していて、その業務によってどんなスキルが得られ、市場価値がどのぐらい上がるか。それらを提示していかないと、採用獲得競争に負ける恐れがあります。
繰り返しになりますが、若手人材の成長志向は高まっています。だからこそ、なおさら企業のサポート力が問われている、ということになるでしょう。