要するに、体重の増加は摂取カロリー量だけの問題ではない。代謝が一日中いつでも同じように効果的に機能するわけではないことから、食事をいつとるかも重要だ。
一定時間断食をするインターバル・ファスティングが多くの人に効果があるのも、そのためではと推察できる。たとえば、朝8時から18時の間に食事をとり、18時から翌朝8時まで、つまり代謝が休憩をとる時間帯にエネルギー摂取を休止することで、腰まわりに脂肪がつきにくくなるというわけだ。
1度や2度、熟睡できなかっただけなら、長期的に深刻な影響をもたらすことはおそらくないだろう。
だが、しょっちゅう睡眠トラブルに悩まされている場合は、いずれ体重増加の問題が起こる可能性がある。
よく眠れなかった夜のあとにエネルギー消費を節約するために、私たちの体はもう1つのトリックを使う。
たとえば、翌日に運動やそのほかのエネルギーを消耗する活動を避けようとするのだ。体を動かしてもすぐに疲れを感じるので、自然に運動量が減る仕組みだ。
慢性的な睡眠不足による体重増加の原因は、以上のように食事誘発性熱産生量の低下と身体活動の減少と相まった、摂取カロリーの増加と不健康な食生活にある。
後者については、著者ベネディクトらが詳しい研究を行っている。被験者グループをウプサラ大学に招き、睡眠不足の翌日に被験者たちがどのような食事を欲するか調査を行った。
まずコンピュータの画面上に、さまざまな食べ物を表示する。いずれも複数のサイズが用意され、実験参加者たちには、希望する食べ物に加え、満腹感が得られそうなサイズを選択してもらった。
すると、徹夜をした被験者は、7~8時間の睡眠をとった対照グループに比べ、より大きなサイズの食事を選んだ。脳が一晩中起きていて、翌朝その分のエネルギーを渇望することを思えば、さほど驚くような結果ではない。
その後、実験参加者全員に、ヨーグルトとオートミール、ハムやチーズを挟んだパンという朝食セットが提供された。食後に、満腹になったかどうかを尋ねたところ、全員がイエスと答えた。
この後、もう一度、コンピュータ上で先に選んだ食事の量を見直し、あらためて理想的なサイズを回答してもらった。すると、睡眠をとらなかった実験参加者たちは変わらず、十分に睡眠をとった人たちよりも大きめのサイズを選択し、しかもファストフードを好む傾向が顕著だった。朝食後に満腹だと答えていたにもかかわらず、だ。
アメリカでも同様の研究が行われていて、睡眠時間が短い人、具体的には一晩の睡眠時間が7時間未満の人は総じてより多くの糖分をとり、食物繊維の摂取量が少ないという結果が出ている。
スウェーデン人研究者とドイツ人研究者、そして著者による別の共同研究では、被験者は1回目の実験では眠ることを許され、2回目の実験では徹夜を強いられた。それぞれの翌朝、被験者たちに300スウェーデン・クローナを渡し、「食べ物を買ってきてください。明日はすべての店舗が休業するという前提で、全額を使ってきてください」と伝え、買い物に行ってもらった。
さて、何を買ってきただろうか。予想どおり、徹夜明けの被験者たちは、たっぷり眠ったあとに比べ、脂肪分が多く、甘く、カロリーの高い食品を購入した。これは進化の観点で見れば、非常に賢い選択だ。よく眠れず、目が覚めている間に多くのエネルギーを消耗したときには、脳に再び十分な燃料を補給しなければならない。
この研究結果は、睡眠不足が食事の量だけでなく、食事内容にも影響を与えることを示している。
満足に眠れないまま朝を迎え、ビュッフェで朝食をとる場面を想像してほしい。何回、おかわりすることになるだろう。そのうえ、お皿にはオートミールではなく、厚くて甘いパンケーキが盛られるにちがいない。
睡眠不足の日に食料品の買い出しに行ったなら、何がカートに放り込まれることになるだろうか。果物や野菜コーナーよりも、ケーキのカウンターやお菓子売り場のほうが魅力的に感じられる可能性が高く、高カロリーの食べ物でいっぱいの買物袋を抱えて家路につくことになる。
その結果、自分自身の体にダメージを与え、体重を増やすだけでなく、家で待つ子どもたちも冷蔵庫の中の牛乳や水の代わりに、買い物袋の中のジュースを欲しがるだろう。
それもこれも、あなたの睡眠が足りなかったばかりに……。