外資系企業が考える管理職としての「最悪の選択」

「ここまでやってきた」は理由にならない

私たちも、うまくいかないことが薄々わかっていても、「ここまでやってきた」ことを理由に、その状況から目をそらしてしまうことがあります。そこには、次のような心理があります。

  • 失敗を認めたくないという自己防衛の気持ち
  • 投じた資金や時間を損失として確定させることへの抵抗
  • もしかしたら一発逆転できるかもしれないという根拠のない期待

しかし、これすなわちPさんの言う大損パターンです。このようなときの判断基準は「ここまでやったのだから」という過去ではなく、「いま始めるとしても、同じことを同じやり方でやるのか?」といった現在に置くべきです。

状況が変わっておらず「イエス」であれば必要な改善をしながら続行、状況が変わったので「ノー」であれば、方針を根本的に見直すか終了、「ここまでやったのだから」という判断は「ノー・サンキュー」です。

「ここまでやったのだから」という理由で失敗をした有名な例として、英仏の企業が世界初の超音速旅客機として開発・製造に取り組んだ「コンコルド」があります。

燃費の悪さ、凄まじい騒音、高価な機体。これでは採算がとれないと指摘されながらも、政府による赤字補塡のもとで継続されました。ここで中止したら、これまでの投下資金と費やした時間が無駄になるということでしたが、結局は、それ以上の大赤字を残して幕を閉じました。

この事例から、「ここまでやってきたから」という根拠のない理由で続けてしまう心理現象は、「コンコルド効果」と呼ばれています。

ゼロベースで決断したインテル

これに対して、現在マイクロプロセッサ(超小型演算処理装置)界の王者として君臨している米インテルは、80年代に、当時の主力事業であったDRAM(半導体メモリの一種)から撤退するという大きな決断を行いました。一時、実質的に市場を独占していたDRAM事業ですが、低価格・高品質の日本企業の猛追にあい、利益率の低い価格競争に巻き込まれていたのです。

のちにCEOとなるアンドリュー・グローブ氏が「自分たちがクビになって、過去にしがらみのないCEOが外部から来たらどうするだろうか?」という問いを経営陣に発することで、過去ではなくゼロベースで未来に目を向けた決断ができたのです。「ここまでやってきたのだから」という発想からの決別が、いまの成功へとつながっています。

もし、あなたのチームの中で、うまくいっていないにもかかわらず「ここまでやったのだから」という理由で続けている仕事があったとしたら、即刻検討し直すべきです。

「いま始めるとしても、同じことを同じやり方でやるのか?」と自ら問い、継続か、修正か、終了かを判断するとよいでしょう。やめるという決断には勇気が必要ですが、インテルのように、それが次の成功を手にするためのステップにもなります。