「イカゲーム」生みの親が全く稼げなかった裏事情

自分の構想を売り込んで、作らせてもらえる可能性が増えたのは、作り手にとって嬉しいこと。それに、韓国のテレビ局で作るのと違い、Netflixの場合は、世界中の人に見てもらえる。なにせ、国際市場なのだ。だからといって、現場での環境やギャラもそうかといえば、違う。そこがジレンマなのである。

Netflixは、製作費を出せば、後は丸投げ。ハリウッドのスタッフ、キャスト、クルーで作る作品では組合のルールが適用され、労働時間が長くなればクルーに規定の残業代が払われる。しかし、韓国のスタッフ、キャスト、クルーはハリウッドの組合に入っていないので関係がなく、ブラックな環境での仕事を強いられる。

AMPTPとの契約があるハリウッドの監督、脚本家、俳優の組合に所属する人々と違って、レジデュアルも自動的には入ってこない。ファンはNetflixに見せられた契約書に文句を言わなかったが、その時、勇気を持ってレジデュアルの条件を入れてくれと言うことは不可能ではなかっただろう。しかし、その要求をしたせいで企画が却下されることを恐れる無名のクリエイターは多いのではないか。

超大物を除く脚本家の収入が減少

これは、今、なぜハリウッドで脚本家のストライキが起きているのかという事情と通じるところがたくさんある。このストライキは「Netflixストライキ」とも呼ばれるように、安く使えるところは安く使おうとするNetflixがオリジナルコンテンツ製作に参入したことで、超大物を除いて、脚本家の収入が減ってしまったことに異議を唱えるものだ。

ギリギリの人数、ギリギリの日数で脚本を書かせて使い捨てにするのではなく、伝統的なテレビの世界がそうだったように、撮影現場や編集室にも行かせてもらって経験を積み、キャリアアップにつながるようにしたい。また、自分がかかわった作品が大ヒットしたならば、それに応じてレジデュアルにもボーナスをプラスし、収益を分配してほしい。脚本家たちは、そういうことを要求しているのである。

Netflixをはじめとする配信会社は、これらの問題を頑なに拒否し、今も交渉は決裂したまま。お膝元でもこんな状況なので、海外のクリエイターのことなど、彼らは心配もしていないだろう。

彼らも収益を出すことへの強いプレッシャーを感じ、社員のレイオフをしている状況にあるのはわかる。しかし、作り手をお粗末にし続ければ、回り回って業界の将来に影響する。広く、長い視野で、何がフェアなのかを、今一度考えてもらうことを望むばかりだ。