いまの時代に企業が求める管理職とは、スピードと質を両立させることができる人材です。そこで、生産性向上への意識がますます重要になってきます。しかし、これまで行われてきたのは、主に業務手順の見直しによる人員・経費・時間の削減といった業務の効率化です。それらは生産性(=アウトプット÷インプット)の分母を最小化させようとする発想です。
もちろん、この努力は怠るべきではありませんが、効率化による生産性の向上には限界があります。アウトプットの質については何も変わっていないからです。そこで、いまあらためて私たちが意識すべきことは、アウトプットの質を高めることによる生産性の向上です。
ただし、「質」とは何を意味するのかを正しく理解せずにこの問題に取り組むと、かえって生産性を低下させてしまいます。では、管理職に求められている生産性向上のための「質」とは、いったい何を意味するのでしょうか。
ある証券会社の営業マンAさんが、顧客のファンドマネジャーから、その日の相場の急落に関してコメントを求められました。Aさんは、社内の調査部門に大至急市場分析を依頼し、翌朝いちばんにレポートを添付したメールを送りました。
一方、別の証券会社のBさんは、同じファンドマネジャーからの電話を、その場で調査部門の担当者に転送し、いま答えることができる範囲で回答してもらいました。
ファンドマネジャー氏が感謝の言葉を伝えたのはBさんだけでした。彼は当日の日本時間の夜に開く米国市場での売買に際して、いくつかの疑問点をすぐに解消したかったのです。
情報の完成度という点では、おそらくAさんの回答のほうが優っていたでしょう。しかし、ファンドマネジャー氏にとって価値があったのは、アメリカ市場が開く前に手にしたBさんの情報です。「タイミングまで考慮したサービスの質」はBさんのほうが高かったと言えます。
この例のように、仕事の質とは高い完成度のことではなく、相手のニーズに対する合致性の高さです。しかし、残念だったAさんのような現象はいたるところで見られます。
その理由は、相手が最も必要としていることが何かを把握せずに、独りよがりの高品質にこだわっているからです。ニーズに合致していなければ、どんなに完成度が高いアウトプットでも無価値です。
「眠っているライオンよりも吠えている犬のほうがまだまし」と教えてくれたのは、シンガポールを拠点とする投資企業の役員のHさんです。マーライオンをディスったせいで天罰が下ることがないよう祈りながら言葉の意味を尋ねると、いくら立派でも使えなければ価値はなく、多少の問題はあっても使えるもののほうがはるかに価値がある、ということだそうです。