「セガのIPを拡大し、世界のモバイルゲーム市場でより多くの人々にリーチできるよう支援するアイデアにわくわくしています」
5月2日、フィンランドで開かれたプレスカンファレンス。現地のゲーム会社「ロビオ・エンターテイメント」(以下、ロビオ社)のアレクサンドル・ペルティエ・ノーマンドCEO(最高経営責任者)は、そう口にした。
セガサミーホールディングス(HD)傘下のセガは4月中旬、ロビオ社を買収することを発表した。イギリス子会社を通じて、5月から株式公開買い付けを行う。買収総額は7.06億ユーロ(約1037億円)に上り、資金はすべて手元現金から捻出する予定だ。
セガはこれまでにも海外の開発スタジオを複数買収し、売り上げ規模を拡大してきた。
2005年には「Total War」シリーズを開発したイギリスのCreative Assemblyを、翌年2006年には同じくイギリスに本社を置き、サッカーゲーム「Football Manager」で知られるSports Interactiveを買収している。今回の買収は、セガサミーHD全体にとっても過去最大規模となる。
2003年にフィンランドで設立したロビオ社は、従業員500人余りの中堅ゲーム会社。しかしゲーム業界では言わずと知れた存在だ。
同社を一躍有名にしたのが、アクションパズルゲームの「アングリーバード」シリーズだ。2009年のリリース以降、世界中で大ヒットし、その後はグッズやアニメ、映画などメディアミックスで展開している。
ロビオ社の2022年度売上高は3.17億ユーロ(約470億円)で、その大部分をアングリーバードシリーズの収入が占めている。2022年の平均デイリーアクティブユーザー数は670万人、累計ダウンロード数は50億に達する。
一方、セガのゲーム事業も好調だ。
セガサミーHDの2023年3月期決算では、ゲーム事業の売上高が前期比約18%増の1879億円となった。2022年11月に発売された「ソニックフロンティア」が320万本(2023年3月末時点)売れたほか、子会社・アトラス社の「ペルソナ5 ザ・ロイヤル」(リマスター版)も170万本(同)売り上げた。
そのうち、モバイルゲームを含む「フリー・トゥー・プレイ」(基本プレイ料金は無料で、アイテム課金で稼ぐモデル)も前期比11%増と貢献している。
「ファミ通モバイルゲーム白書2023」によると、2022年のモバイルゲーム世界市場規模は8兆9146億円となった。巣ごもり需要の収束により前年比97.2%と落ち着く形となったが、競争が激化する国内市場から成長を見込める世界に向け、グローバル展開できるモバイルゲームに活路を見出す企業も多い。
現状、セガのコンシューマ事業(家庭用・オンラインゲームなど)は、売上高の4割弱をモバイルゲームが占めている。ただ、そのモバイルゲームの9割近くは日本国内で稼いでいる状態だ。
国内モバイルゲーム市場の競争が激化する中、日本に偏重した収益構造は、セガにとって大きな課題だった。一方のロビオ社は、北米やヨーロッパなど日本以外での売り上げが大半を占める。買収により、セガは約1割にとどまっている海外売上比率を、単純合算ベースで一気に45%まで伸ばす算段だ。
今回の買収は、単にグローバルで人気があるIPを手に入れたかったからだけではない。
セガサミーHDの里見治紀社長は、冒頭のプレスカンファレンスにおいて「私たちの目的は、ロビオの高い開発力と経営力を学び、強化すること。セガがグローバル市場に打って出ることで、もう一段階大きな成長を遂げることができると考えている」と力を込めた。