そこで都市部に住んでいるイヌイットにフォーカスして、たとえば「食材を腐らせないために氷を必要としている家庭」や「冷えた飲み物を提供するために氷を活用したい飲食店」などにアプローチ先を絞っていけば、氷を売ることができる確率は大きく高まるでしょう。
5%セールスはこのように相手のことを調べ、営業する先を狭めて、そこに向けてセールスを行います。一方95%セールスは調べる前に極寒の地に出向いて、イヌイット全員をターゲットにして氷を売ろうとしているのです。
あなたは、「お金持ち」とはどういう人のことだと思いますか?
私たちがクライアント各社に提供している営業研修でこの質問をすると、さまざまな答えが返ってきます。
「働かなくてよいほど資産がある人」
「1億円持っている人」
「食べていくことに困らない収入がある人」
「年収1000万円の人」
参加者の答えはさまざまです。私の感覚ではどれも正解だと思います。
しかし、いざ営業をかける際には、各人のターゲット認識が異なっていては、協力してアプローチできません。チームで仮説を立てて、行動実験しながら成約率を高めるためには、チーム内での定義を合わせる必要があるのです。
ある医療機器販売の5%セールスは、同じ研修で次のように答えました。
「金融資産が3億円以上の人」
この回答に他の参加者がどよめき、このような反応が返ってきました。
「細かすぎるだろ」
「そんなに持っている人、ほとんどいないよ」
しかし、その5%セールスは次のように発言して、周囲の信頼を高めたのです。
「金融機関が提供しているプライベートバンキングの多くでは、金融資産が3億円以上と定義し、そこにターゲットを絞って特別なサービスを提供しています。この定義に当てはまる人口は300万人だそうです。このように外部データや数字を使って『お金持ち』を具体的に定義すれば、チームの認識を統一できるのではないでしょうか」
こうしてターゲットを定義してチームで戦うのが、5%セールスの特徴のようです。
皆さんはTEDをご存じでしょうか? 世界中の著名人や専門家が大勢の観客に囲まれて、資料を投影したり、身振り手振りのジェスチャーをしたりしながら自分の考えを発表する、いわゆるプレゼンテーション・ショーです。
これまでマイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツや、アップルの生みの親であるスティーブ・ジョブズなども登壇し、テレビや動画配信サイトで紹介されています。
論理的な説明方法や豊かな表現力は確かに勉強になります、95%セールスの多くが視聴して、取り入れようとする人もいます。私もいつかあの場でプレゼンをしてみたいと思っています。
しかし、そもそもあのようなプレゼンテーションは必要でしょうか?
大勢の前でプレゼンすることが得意な人は、営業成績がよいでしょうか?
調査したところ、その答えは「NO」でした。
不特定多数の人に自社の製品やサービスをアピールするのは、セールスではなくマーケティングの仕事です。マーケティングは、広告やSNS、イベントなどで認知拡大を行い、潜在顧客を創り出します。
B2B、つまり企業対企業の取引の場合、マーケティングで生成された案件を成約(購買)にもっていくために個社毎に対応するのがセールスです。
イベントやセミナーに登壇するのは、マーケティング担当が多いです。マーケティング担当は、多くの人の認知を変える責任を持ちますので、プレゼン力が高いほうが多くの人を惹きつけます。