エンターテインメント界最高峰のアカデミー賞で映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が7冠を獲得した3月13日、香港の街はその話題で持ち切りでした。なかでもミシェル・ヨーがアジア人初の主演女優賞を受賞したことを好機と捉える見方があります。民主化デモとコロナの影響を乗り越え、香港エンタメで復活劇を図ろうと、必死な想いすら伝わってきます。
かつて香港映画で女優としてのキャリアをスタートさせたミシェル・ヨーが、カオスな世界でカンフーアクションを見せまくるのが映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」です。今年のアカデミー賞で圧勝し、アジア人で初めて主演女優賞を受賞したことでも歴史に名を残し、それはもう香港人が誇りに思わないわけにはいきません。
還暦のミシェル・ヨーが「女性の皆さん、盛りが過ぎたなんて誰にも言わせてはいけませんよ」と発言した受賞スピーチも話題になりましたが、そのスピーチの中で彼女は香港のことも忘れていませんでした。
「私のキャリアの原点である香港の皆さんも私を尊重してくれて、助けてくれてありがとう。そのおかげで、私は今日ここにいます」
香港では当時珍しかったといわれるカンフーアクション女優として人気を集めたことが彼女にとって出発点になったことがわかる言葉です。そして、ジャッキー・チェンをはじめ世界で名の知れた映画スターを数多く輩出してきた香港エンタメ界の存在を改めて知らしめるものにもなったのです。
くしくもこの発表があった3月13日から香港現地で29回目の開催を数えるアジア最大級の映画とテレビのマーケット「香港フィルマート」が始まり、会場には香港スターも勢ぞろいしていました。そこにはジャッキー・チェンの姿もあり、ほかニコラス・ツェーやトニー・レオン、アンディ・ラウなど香港を代表する俳優陣が集まる場が作られたのです。
香港最大手の映画会社エンペラーモーションピクチャーズが開催した記者会見では彼らが出演する「香港国際警察2」や「ザ・ゴールドフィンガー」などの最新作が次々と発表され、香港エンタメが今、盛り返していることを伝えていこうと、そんな空気感さえありました。
というのも、ここ数年、コロナの影響を受けて、香港エンタメ界を長年にわたり支えてきた映画産業は大きく落ち込み、香港フィルマートのような地元で開催される国際的なマーケットもオンラインに切り替えられていました。
映画館営業に関しては、2020年から2022年にかけて267日間もの期間、映画館の明かりは消え、防疫措置の緩和で2022年の途中からようやく座席数を制限する条件で営業が復活し、完全解除されたのは12月22日と、今からほんの3カ月前まで厳しい状況が続いていたのです。
そんななかでも、2022年後半から香港の映画興行は急回復していることが関係者から報告されています。もともと映画好き人口が多いといわれる香港ですが、苦しいときにある映画産業の状況を知ってか、映画館に足を運ぶ数が軒並み増えていったというのです。