既存メディア離れが進む中、企業がオリジナルアニメ動画の配信で多くの再生回数を稼ぐなど、成果を上げている。
たとえば電子部品大手の京セラ。京セラといえば創業者で日本を代表するカリスマ経営者・稲盛和夫氏(故人)の存在がすぐに思い浮かぶ。だが、事業内容や製品まで詳しく知っている人は意外と少ないのではないか。年間売上高1兆8389億円、営業利益1489億円(2022年3月期)という超優良企業にもかかわらず、就職人気ランキングの上位に登場してこないのも、学生の間で認知度が不足しているからかもしれない。
その京セラが昨年からオリジナルアニメ動画を発信している。昨年1月公開の第1弾は『「あなたを一言で表してください」の質問が苦手だ。』(「#あなひと」/監督・千明 孝一/制作:バンダイナムコフィルムワークス)、今年1月公開の第2弾は『私のハッシュタグが映えなくて。』(「#タグなく」/同)。
『#タグなく』は、空中ディスプレイで#(ハッシュタグ)を映し出して自己表現するという状況設定の中、社会的評価によって得られる「レアタグ」目当てだった女子大学生が、「誰かのために」という思いの大切さに気付くという物語を描いた作品だ。
声優は、女子大生役が人気アニメ『SPY×FAMILY』のヨル・フォージャー役の早見沙織、先輩役が2年連続で声優アワード主演男優賞を受賞した梶裕貴という豪華な顔ぶれ。主題歌はZ世代に人気バンドのSHISHAMOの書き下ろしだ。
いずれの作品もテレビCMのオンエアに加え、オリジナルアニメ特設サイトからも発信している。ユーチューブでの再生回数は『#あなひと』が596万回、『#タグなく』は442万回の再生回数が表示されている(3月現在)。
アニメ動画配信の狙いについて京セラの担当者は、「弊社のブランド課題として、若年層の京セラ認知度が社名レベルという点があります。少し堅い製造業のイメージを打ち破りつつ、Z世代を中心とする若い人たちに弊社を知ってもらうため、意外性を込めてアニメを活用しました。若年世代の好感度向上が実施目的です」(広報室ブランド推進課)と語っている。
アニメとの親和性が高いZ世代をターゲットに、著名声優陣を起用して作品を制作したわけだが、問題はいかに作品の存在を広めるかだ。そこで、若者の視聴が期待できる深夜帯でのテレビCMに加え、ツイッターやインスタなどSNSでの発信にも注力。声優とコラボレーションしたTwitterキャンペーンも行った。その結果がユーチューブ上での多くの再生回数につながった。
『ハッシュタグ』のユーチューブでの反応をチェックしてみると
<声優さんが豪華すぎる>
<就活中にこのCMは効く>
<こんな短いアニメーションなのに、何か大切なメッセージを伝えられた気がして>
<京セラの本気>
など好意的なコメントが並んでいる。就職人気ランキングでの順位が上昇傾向にあるなど、目に見える具体的成果も上がっているようだ。
もう1社、ユニークなアニメ動画配信を行っている例を紹介しよう。カップヌードルでおなじみの日清食品ホールディングスの『日清焼そばU.F.O.CM「そろ谷U.F.O.食べたやろ篇」』である。
日清食品は「U.F.O.」だけでなく、「日清のどん兵衛」「カップヌードル」でもアニメ動画をテレビCMやサイトなどで配信。製品によって企画意図や訴求するターゲットが異なるという。3月8日からテレビ放送を開始した『食べたやろ篇』は、人気ユーチューブチャンネル「そろ谷のアニメっち」とのコラボが話題を集めている。