「男性版メイドカフェ」が増えている時代背景

ここまでは、ちまたのメイドカフェなどのシステムとあまり変わらないが、店で働くキャストたちが現実に芸能界デビューをめざしていることがコンセプトゆえに、客にとってはリアル育成ゲームとして楽しめるのが最大の特徴だ。

元パティシエのキャスト手作りのアップルパイ(写真:サンミュージック名古屋)

「お客様には来店時に青色の“経験値メダル”をお渡ししています。そのメダルを“推し”のキャストに授与することができます。キャストはメダルの数に応じて王子ランクが上がり、ウエイター業務時やステージパフォーマンス時の衣装が変化していきます」(和田さん)と、まさにリアル育成ゲームである。

メダル0枚は入門したての王子「なまたま王子」。10枚獲得すると、ネクタイが付けられる「よちよち王子」となり、50枚でベストが着用できる「ひよこ王子」という具合にランクが上がっていくのだ。ランクは16段階あり、店名にもなっている「半熟王子」は下から7番目でメダル獲得数は300枚。その上には「貴族王子」(500枚)や「大名王子」(1000枚)、「参謀王子」(2000枚)……というランクがあり、最上級は20万枚の「伝説王子」。

ただ、「半熟王子」3人以上でアイドルユニットが結成され、オリジナル楽曲が提供される。つまり、芸能界デビューの足がかりとなるのだ。

チェキでのツーショット写真も(写真:サンミュージック名古屋)

「経験値メダルは、料理の注文などでも入手することができます。お客様は推しのキャストの育成を早めることもできるわけです。キャストは店での仕事を通じて知名度を上げ、実際に応援していただけるファンを獲得しながらデビューを目指すことができるのです」(和田さん)

適正な料金とサービスで健全な運営を

ここで気になるのは、今年1月末に東京都青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕されたメンズ地下アイドルグループのメンバーの事件である。当時未成年だった少女にわいせつな行為をしただけではなく、メンバーが働くメンズコンカフェでのツーショット写真撮影、いわゆる“チェキ券”に約300万円もの大金を貢がせていたことも発覚した。

また、メンズコンカフェに通うためのお金を捻出するためにパパ活に手を染めたり、風俗で働いたりする女性も多いと聞く。そうなると、もはやメンズコンカフェではなく、ホストクラブにカテゴライズされてしまう。

「それは運営する芸能プロダクションのマネジメント次第だと思うんですね。売り上げを重視するあまり、過度なノルマを課したり、ハグやキスといった過激なサービスを容認したりしているわけですよ。お客様も芸能タレントも芸能プロダクションも皆、幸せになるのがエンタメビジネスだと思っています。そのためには適正な料金とサービスで健全な運営を心がけています」(和田さん)

サンミュージック名古屋の社長、和田哲幸さん(筆者撮影)

筆者が暮らす名古屋では、2008年のリーマンショックを境に地元テレビ局のローカル番組に地元タレントが出演する機会が少なくなり、今ではほとんど見かけることはない。かつて人気を博していた地元タレントたちは、ケーブルテレビやコミュニティFMなどで細々と仕事をしていると聞く。

現在、地元ローカル番組に出演しているのは、ジャニーズ、AKB48のメンバーや吉本の芸人。「芸どころ名古屋」はすでに過去の話なのである。名古屋のエンタメ業界の灯を消さないためにも「半熟王子」から名古屋を飛び越えた国民的アイドルが誕生してほしい。