また、大きな組織では、個々人の担当する領域が明確に分かれているために、自分の担当分はきれいに掘って仕上げているが、他人の担当領域は知らんぷりで、結果としてトンネル全体が開通せずに終わってしまうことがあります。こうした例は枚挙にいとまがありません。
「100点をねらって結果として0点になる」のか、「まず20点でもよいから全体を「開通」させて、そこから精度を上げていく」のか。その違いがおわかりでしょうか。
この考え方は最近の言葉でいえば、「思考のプロトタイピング」というものです。VUCA(変動、不確実、複雑、曖昧)の時代と言われる現在、20点を目指して試行錯誤を繰り返すプロトタイピング(試作)の考え方は、ますます役に立つ場面が増えています。
まずは完成品とプロトタイプの違いについて定義しておきましょう。完成品とは、たとえばメーカーでいえば顧客に納入する状態のものをいいます。つまりメーカーとしては売り物のレベルをクリアした状態の理想的には(当初の目標製品仕様に対しての)「100点のもの」ということになります。
対してプロトタイプというのは直接顧客に納入するものではなく、むしろ内部での検討用のもので、主に完成品に向けての課題や改善項目をリストアップするためのものと言えます。このような違いが、両者に対する必要な取り組みの姿勢の違いとなって表れてくるのです。
各々の違いの概要を見ておくと、完成品というのは完成度を上げることが目的であり、作り上げることが目的で精緻に個々の構成部品を作り上げて一回でプロセスを完了させるのに対して、プロトタイプというのは、あくまでも何度も作り直しながら完成度を上げるための1つの過程でしかないので、その目的は次に向けていかに課題をあぶりだすかということであり、そのためには個々を精緻に作り上げるというよりは「ざっくりと全体像を作り上げる」ことが重要になります。
このためにプロトタイプは100点を目指すというよりは、20点や30点でもよいから全体像を作り上げる必要があります。
このように「1つのプロセスを完結させて次のプロセスに移る」という順次的なプロセスが有効な完成品型の進め方に対して、プロトタイプは「とにかく出来が悪くても全体を作り上げてからその精度を徐々に上げていく」というらせん型のプロセスが重要になります。
ここでいう完成品型のやり方は、日本が20世紀に得意としていた製造業の仕事の仕方に非常にマッチしており、ある意味几帳面に製品を完成させていくのが得意な日本人の気質とも合致したことが当時の製造業の奇跡的な躍進にもつながったといえます。
ところが時代が変化してデジタル&VUCAの時代になり、変化の速度が飛躍的に増大するとともに簡単に試作ができるようになった(デジタルなので)という時代の変化は、最適な仕事の進め方にも影響を与えました。このような時代には試行錯誤型でスピーディーに試作を繰り返していくプロトタイプ型の仕事の進め方が変化に迅速に対応できるのです。