世の中にはいろいろな人がいます。少しきつく言われるだけでも動揺するからやさしく話しかけてほしいという人もいれば、その逆で、きつくともハッキリと手短に伝えてくれたほうがありがたいという人もいるでしょう。
「どんな相手にも、いつでも、それさえやっていれば心理的安全性は高まる」という魔法の言葉やメソッドは存在しないことは、念を押してお伝えしておきましょう。
むしろそうしたやり方は、相手の都合を無視した、自分本位のやり方であり、メンバーの心理的安全性を高めるうえでは、およそ真逆と言えるアプローチなのです。
もうひとつ、ありがちな誤解があります。それは職場の心理的安全性を高めることを「ゴール」だと考えてしまうことです。
もちろんマネジャーにとって、職場やチームの心理的安全性を高めることは大事ですが、心理的安全性はあくまで組織の生産性を高めるための手段のひとつであり、ゴールではないということです。
想像してみてください。仮に、メンバーとの打ち合わせで言いたいことを自由に発言できて、楽しく充実した時間だったとしても、それが何ひとつ成果につながらなかったとしたらどうでしょうか。
いくら心理的安全性は高くても、成果を出せないチームは評価されません。当たり前のことですが、改めて強調しておきましょう。
Googleの元CEO、エリック・シュミットはある講演で“glue people”という言葉を使っていました。日本語に直訳すると「接着剤のような人」です。
社交的で、みんなに好かれる組織の人気者。でも仕事では具体的な成果を出しているわけではない人、といったイメージです。
どんなにチームの雰囲気をよくして、職場の心理的安全性を高めているとしても、その人や、その人のチームの生産性が上がっておらず、実際に成果が出ていなければ、組織の中で与えられた役割を果たしていないと僕は思います。
また、“glue people”は社内で顔が広く、他部署と良好な関係を築き、調整役となっているケースもあります。こういう人は組織で重宝されそうですが、だからといって組織に必要かといえば、僕の答えはNOです。組織全体と各部署に明確なミッションや目標があり、それが共有されていれば、部署間の調整は本来必要ないからです。調整役を重宝する前に、組織の運営体制を見直すべきです。
ビジネスではもちろん、良好な人間関係が求められます。でも、それ自体はゴールや目標ではありません。そのことを肝に銘じておきたいものです。