10代から20代、20代から30代と年齢を重ねるにつれ、少しずつ人生の可能性が狭まっていくように感じる人は多いようです。拙著『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』に登場する30代の青年も、その1人。仕事も恋愛もパッとしない日々が続き、休日は単独行動することも多いそうですが、友人がいないこともないそうです。
であれば、彼らとの関係を充実させれば、人生が楽しくなりそうなもの。しかし青年によると、ここ2、3年で急速に、旧友との会話に飽きてきてしまったといいます。なぜでしょう。話を聞いてみると、「ネガティブな話題ばかりがループするようになってしまって……」とのことでした。
青年のいちばんの親友は、学生時代に同期だった男性。2人ともそれほど気の向かない仕事をダラダラと続け、今に至るまで同程度の年収だといいます。また、プライベートも似たようなもので、長く打ち込むような趣味もなく、女性との付き合いも得意な方ではなかったようです。
結果として、次々に結婚していく周囲をよそに、彼らがつるむ頻度も増えていったといいます。土曜の夜、いつもの居酒屋で、酔いとともに飛び出す愚痴の数々……上司が嫌だ、自分たちがモテないのはおかしい、あの有名人が嫌い、楽してカネが欲しい、などなど。それでも20代のうちは「そうは言っても、いつか人生が好転するだろう」という思いがあったため、愚痴を言うのもどこか楽しかったと青年はいいます。
そんな状況が最近は変わってしまったようですが、これは幸福学の観点からもいわば「黄色信号」。改善方法についてお話ししていく前に、まずは「青信号」の人間関係とは何なのかについてお話しします。
同じ友人と同じ話題を繰り返している現在の青年は、人間関係が固定化しかけている状態にあります。これが黄色信号であるとすると、そもそも、青信号の人間関係とはどのようなものなのでしょうか。私が博報堂と共同で行った研究が参考になると思います。
この研究では「人はつながると幸せなのか?」をテーマに、さまざまな地域で、調査対象者15,000人の「つながり」に関する7つの項目をまとめました。その内訳は、①人口密度、②同居家族数、③団体数、④つきあいのある親戚数、⑤友人の数、⑥親友の数、⑦Facebookの友人数です。
その結果をつながりの疎な人から密な人まで5~6グループに分類し、各グループのスコアを算出、比較したのです。その結果、同居家族や親友のような近くて深い人間関係よりも、つきあいのある親戚や友人など「幅広い人間関係」が人の幸せに寄与するようだとわかりました。このことは、地域の幸せだけでなく、個人の幸せを考えるうえでも重要な示唆を与えてくれます。
ただし、単に友人の数を増やせば増やすほど幸福になるわけではない、という点に注意してください。大切なのは、あくまで多様な人間関係のなかに身を置くこと。友人づきあいというと、ついつい青年のように「似たもの同士」ばかりを選んでしまいがちですが、そうではなく、「自分にないもの」を持つ人と付き合うことを意識すべきなのです。私自身もそう心がけています。