トヨタとアップルにあって他社にはない戦略とは

そこから先のトヨタの仮想敵企業は、アメリカホンダです。トヨタは主戦場を日本からアメリカに動かしたのです。

日本でははるか下に見える本田技研工業は、いつの間にかアメリカに行って成功している。これはいかんということで、アメリカでホンダに勝つことにトヨタは心血を注ぐようになっていくのです。

アメリカにおけるファミリーセダン、主戦場の車のマーケットシェアナンバーワンは、ずっとホンダのアコードでした。それをトヨタが追い抜くのに成功したのは、ようやく1990年代に入ってからです。

それから張富士夫さんが社長になり、アメリカホンダから次に行こうとギアチェンジをして、トヨタは世界に出てきます。そこでの仮想敵企業はゼネラル・モーターズ(GM)に移るわけです。

ところがそのGMが、リーマンショックで破綻して、オバマ政権に救済を仰ぐことになりました。その時点で、もうGMとの戦いも終わったということで、そこから先のトヨタの仮想敵企業はフォルクスワーゲンです。

今、年産1000万台近辺でトヨタが戦っている相手はフォルクスワーゲンです。これは、トヨタにとって今までにない敵です。

一方でゴルフのような手堅い実用車を持ちながら、ポルシェのような高級車も持っている、アウディも持っている。ベントレーやシュコダも持っていて、トヨタよりもはるかに扱う車のレンジが広い。

フォルクスワーゲンが何よりも手ごわいのは、中国の国民車が、上海一汽フォルクスワーゲンの生産するジェッタだということです。そして、共産党の人たちが乗る車はアウディです。

つまり、中国の公用車と言って過言ではないのがフォルクスワーゲンで、トヨタにしてみると、アメリカに一生懸命になっている間に中国が巨大市場化して、気がついてみたらフォルクスワーゲンがそこを占拠していたということになっている。

それに挑戦しているのが今のトヨタです。

重要なのは成長へのギアチェンジ

企業の成長は、毎日毎日ちょっとずつという話ではなく、こうして明確にステージを切り替えて、一段一段階段を上っていくような話なのです。

そして、次の階段を上るところでは、経営の意思によって明確にギアチェンジをしなければいけません。

「このタイミングでのギアチェンジとは何か」を議論せずに、ただ成長とか成長戦略と振り回したところで、何の意味もないのです。

成長という目標を掲げるよりも、次のゲームにステップアップするために、自分たちは何を変えるのかをはっきりさせなければならないということです。

トヨタは日本、アメリカ、そして世界へと、ギアチェンジしてきました。

これをたとえば、アップルで見るとどうなるか。

アップルは当初、パソコンを主戦場に戦っていました。Macです。けれども、これがなかなかうまくいかない中で、2001年にiPodを出します。

こうして、パソコンの会社が、皆さんに音楽を配信する会社に変わってきます。

私もMacユーザーですが、Macユーザーが高齢化して、この人たちと一緒に命脈が尽きていくということでは困るので、アップルはiPodを出すことで、まずは顧客の平均的な年齢層を50代から20代まで下げました。

それから、若い人の間でアップルという名前が浸透した頃合いを見計らって、2007年にiPhoneを投入します。

日本企業にはギアチェンジが欠けている

こうして、パソコンの会社が音楽の会社になり、それから電話の会社になりますが、iPodもiPhoneも、その中身はコンピューターです。

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つまり、ユビキタスなコンピューティングをやるという信念は微動だにしていないけれど、それを問うときの形が変わっている。これも明確にギアチェンジしている例と言えるでしょう。

そしてアップルは、ギアチェンジするたびに、飛躍的にステージが上がって大きくなっていきます。今やアップルの時価総額は300兆円。その面ではトヨタ10社近くに匹敵する会社になりました。これはすごいことです。

日本企業に欠けるのは、このギアチェンジの重要性の認識です。ギアチェンジをしない限りは次のステージに行けないし、よって成長しないのです。

先輩たちがつくり上げた事業にしがみついて、もっと営業を頑張れとか、改善を頑張れと言って社員のお尻をたたいたところで、ギアチェンジしていく企業にはまったく歯が立ちません。

ギアをチェンジするという仕事は、経営者にしかできない。この仕事がうまくいっていないのが、日本企業最大の問題なのです。