通常、取引金額の10%が消費税であり、これは決して小さな比率ではない。ゆえにスーパーは小規模企業や個人の仕入れ先などに対し、インボイスを発行できるよう要求し始めているわけだ。
形式的にはインボイス制度に対応するかどうかは任意。だが、販売先からインボイスを発行できるよう依頼されたら、実際に断ることは難しいのが実情だろう。
以下では、インボイス制度の下、支払った消費税がどのように控除されるかについて、深掘りしてみたい。そのためには、事業者が納付する消費税がどのように納められるかについて、仕組みの全体像を把握する必要がある。
まず事業者は顧客に商品やサービスを提供する時点で、売上高の本体価格に消費税を上乗せして請求する。例えば、顧客は100円の商品を買う場合、消費税10円(税率10%)を上乗せされ、合計110円を支払っている。一部の例外を除き、ほぼすべての取引に消費税はかかっている。
その後、事業者は顧客への販売で受け取った消費税を、税務署に納付しなければならない。
一方では事業者も事業活動をするうえで、他の事業者の商品やサービスを仕入れており、その際には消費税を支払っている。納税するときには、「受け取った消費税」から「支払った消費税」を差し引くことができ、これを「仕入税額控除」と呼ぶ。納める税金は控除した後の金額だ。
具体的なケースを挙げよう。今回はフリーライターに原稿を書いてもらい、書店へ書籍を販売する出版社の立場で、消費税の計算を行ってみたい。話を単純化するため1冊単位とし、取次や印刷会社との取引は割愛、再販制度も適用されないとする。
出版社はライターに1冊770円(うち消費税70円)の契約で原稿を執筆してもらい、書店に対しては同1100円(同100円)で書籍を納入。書店は同1320円(同120円)で書籍を顧客に販売するものとしよう。
ここで出版社は事業活動として、ライターに770円を支払い、書店に1100円を請求する。
消費税を取り上げると、出版社は書店から受け取った100円の消費税を納税する必要があるが、仕入税額控除ができれば、そこからライターに支払った70円を差し引ける。つまり出版社は30円(=100円-70円)の消費税を納めればいいわけだ。
税金だけを通して見れば、最終消費者である書店の顧客が、一連の消費税全額120円を負担している。この消費税120円について、書店が20円(=120円-100円)、出版社が30円(=100円-70円)、ライターが70円を、それぞれ分担して税務署に納付しているにすぎない。
もっとも23年10月以降、これらの事業者の中に免税事業者がいる場合、120円の分担の割合が違ってくる。ライターが免税事業者のままであれば、出版社は仕入税額控除を使えず、結果、ライターの分まで消費税100円(出版社の30円+ライターの70円)を納めなければならない。
10月以降に仕入税額控除を適用されるには、要件として、インボイスは法定事項が記載された請求書等に特定される。つまり、インボイスの登録をした課税事業者からもらう請求書でなければ、今後は仕入税額控除をすることができなくなるわけだ。
ライターが登録をせず、免税事業者のままでいたら、インボイスを発行できない。出版社としては、インボイスをもらえないと仕入税額控除ができなくなるため、ライターに登録を促すだろう。
つまり、ライターは課税事業者として消費税を納めてでも、出版社と取引するため、インボイス制度に対応せざるをえない事情がここにある。
ちなみにインボイス制度の導入後は、一般社員も例外ではないので、注意しておきたい。