「強くなっても儲からない」日本スポーツ界の難題

選手達が王監督を胴上げする様子
第1回のWBCは日本が優勝。王貞治監督が胴上げされた(写真:時事)
ウクライナ、気候変動、インフレ……。混迷を極める世界はどこへ向かうのか。12月19日発売の『週刊東洋経済』12月24-31日号では「2023年大予測」を特集(アマゾンでの購入はこちら)。世界と日本の政治・経済から、産業・業界、スポーツ・エンタメまで108のテーマについて、今後の展開とベスト・ワーストシナリオを徹底解説する。この記事は本特集内にも収録しています。

プロ野球などのスポーツの世界を、娯楽小説として臨場感豊かに描くのが、作家の本城雅人氏である。スポーツ小説の名手が語るビッグイベントの楽しみ方とは。

WBCはようやく「本当の世界大会」に

週刊東洋経済 2022年12/24-12/31【新春合併特大号】(2023年大予測 108のテーマで混沌の時代を完全解明!)
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──2023年は野球のワールドベースボールクラシック(WBC)があります。

過去の大会ははっきり言って、日本をお客さんにしたアメリカのメジャーリーグ(MLB)のビジネスという側面が強い印象だった。将来メジャーに行きたいという日本人選手のオーディションも兼ねていた。

日本人は「野球が盛り上がる」と言って歓迎していたが、よくよく考えればアメリカのビジネスに付き合わされている感じだった。

その傾向は今も続くが、日本が第1回、第2回と優勝すると、ドミニカ共和国やプエルトリコも全精力を傾けて、アメリカの存在感が希薄になる。アメリカがそんな危機感をばねに優勝すると、メジャーリーガーの参戦意欲が高まった。「自分たちのオリンピック、ワールドカップ」という意識が芽生えている。

早い段階で出場を表明した選手がたくさんいたが、球団はその流れを止められなくなってきた。アメリカのメジャーが参戦するので、大谷翔平選手も堂々と手を挙げることができる。本当の世界大会として位置づけられるものになってきた。

本城雅人(ほんじょう・まさと)/作家。1965年生まれ。スポーツ紙の記者としてプロ野球取材などに携わる。退職後、松本清張賞候補作の『ノーバディノウズ』でデビュー。『ミッドナイト・ジャーナル』で吉川英治文学新人賞受賞。『傍流の記者』で直木賞候補。 『スカウト・デイズ』PHP研究所/『ビーンボール スポーツ代理人・善場圭一の事件簿』文春文庫

──大谷選手や佐々木朗希選手らとメジャーのオールスターたちとの戦いは本当に面白そうです。

例えば大事な準決勝の先発ピッチャーは大谷、決勝は佐々木だったり。マエケン(前田健太)やマー君(田中将大)も臨戦態勢を整え、日本一の原動力になったオリックスのピッチャーも出番を待つ。そんな投手陣ならわくわくする。

力勝負もできるチーム

日本が昔ながらの「技」に特化したチームだとは思わない。大谷が典型的だが、身長190センチ以上の選手がたくさんいる。「柔よく剛を制す」というよりは、力と力の激突が可能ではないか。その意味でも「真の実力を競う大会」と呼ぶにふさわしい。

サッカーのワールドカップのレベルを目指すのなら、放映権も含めた収益の分配も公平であるべきで、それはまだ道半ばだが、これも大会を継続することで改善されていくだろう。

日本の優勝の確率は、初期の頃と比べたら、低い。相手が格段に強くなってるからね。しかし、優勝の価値は1回、2回よりはるかに高い。

WBCは日本人がここまで大きくした大会。スポンサーを集めて、実際にアジアラウンドを勝ち抜いて、1回、2回は優勝まで果たした。日本のファンは大手を振って、「われわれがこの大会をつくった」と誇っていい。