プロ野球などのスポーツの世界を、娯楽小説として臨場感豊かに描くのが、作家の本城雅人氏である。スポーツ小説の名手が語るビッグイベントの楽しみ方とは。
──2023年は野球のワールドベースボールクラシック(WBC)があります。
過去の大会ははっきり言って、日本をお客さんにしたアメリカのメジャーリーグ(MLB)のビジネスという側面が強い印象だった。将来メジャーに行きたいという日本人選手のオーディションも兼ねていた。
日本人は「野球が盛り上がる」と言って歓迎していたが、よくよく考えればアメリカのビジネスに付き合わされている感じだった。
その傾向は今も続くが、日本が第1回、第2回と優勝すると、ドミニカ共和国やプエルトリコも全精力を傾けて、アメリカの存在感が希薄になる。アメリカがそんな危機感をばねに優勝すると、メジャーリーガーの参戦意欲が高まった。「自分たちのオリンピック、ワールドカップ」という意識が芽生えている。
早い段階で出場を表明した選手がたくさんいたが、球団はその流れを止められなくなってきた。アメリカのメジャーが参戦するので、大谷翔平選手も堂々と手を挙げることができる。本当の世界大会として位置づけられるものになってきた。
──大谷選手や佐々木朗希選手らとメジャーのオールスターたちとの戦いは本当に面白そうです。
例えば大事な準決勝の先発ピッチャーは大谷、決勝は佐々木だったり。マエケン(前田健太)やマー君(田中将大)も臨戦態勢を整え、日本一の原動力になったオリックスのピッチャーも出番を待つ。そんな投手陣ならわくわくする。
日本が昔ながらの「技」に特化したチームだとは思わない。大谷が典型的だが、身長190センチ以上の選手がたくさんいる。「柔よく剛を制す」というよりは、力と力の激突が可能ではないか。その意味でも「真の実力を競う大会」と呼ぶにふさわしい。
サッカーのワールドカップのレベルを目指すのなら、放映権も含めた収益の分配も公平であるべきで、それはまだ道半ばだが、これも大会を継続することで改善されていくだろう。
日本の優勝の確率は、初期の頃と比べたら、低い。相手が格段に強くなってるからね。しかし、優勝の価値は1回、2回よりはるかに高い。
WBCは日本人がここまで大きくした大会。スポンサーを集めて、実際にアジアラウンドを勝ち抜いて、1回、2回は優勝まで果たした。日本のファンは大手を振って、「われわれがこの大会をつくった」と誇っていい。