サッカーW杯に賭けた「アベマ」、黒字化への高い壁

サッカーのカタールW杯全64試合を無料中継したアベマ。12月5日(現地時間)に開催された日本対クロアチア戦の視聴数は、2400万超に上ったとされる(記者撮影)

「12月2日の視聴者数が1700万を突破し、開局史上最高数値となりました」――。

12月18日(現地時間)、アルゼンチンの勝利で幕を閉じたサッカーのカタールW杯。決勝トーナメントに進出した日本代表の活躍とともに、全64試合の無料中継で大きな注目を集めたのが、インターネット広告大手、サイバーエージェントが運営するインターネットテレビ「ABEMA(アベマ)」だ。

試合中継で民放放送局が抜けた穴を埋める役割を果たしたサイバーエージェントが、業界団体に支払った放映権料は推計で100億円とも、200億円ともいわれている。

いったいなぜそこまでの巨額投資に踏み切ったのか。その理由の一端は、同社の収益構造から透けて見える。

ゲーム事業で赤字穴埋めの限界

現在サイバーエージェントはアベマなどのメディア事業のほか、広告事業、ゲーム事業という3つの事業を柱としている。中でも現在大きく利益貢献しているのがゲーム事業だ。

2021年2月にリリースしたスマホゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』の大ヒットによって、2021年9月期はゲーム事業だけで実に964億円の営業利益(前期比217.9%増)をたたき出した。

一方で、2022年9月期のアベマとその周辺事業の営業利益は128億円の赤字だ。2016年4月の開局以来、大幅赤字から脱却できておらず、ゲーム事業での稼ぎで穴埋めしてもらう構図が続いている。

楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジストの窪田真之氏は「今後はゲーム事業だけでなく、広告事業の成長も落ちてくるので、今の成長を維持するにはアベマで伸ばすしかない」と指摘する。こうした足元での収益構造の変化が、今回の挑戦的な投資の契機になったのかもしれない。

サイバーエージェントの藤田晋社長はアベマを「10年がかりの投資」と位置づける。11月にも転換社債の発行で400億円の調達を表明。最大200億円を満期転換社債の償還資金に充て、残りをアベマの運転資金などに使うという。

またここ数年はアベマの赤字額がやや縮小傾向にあり、藤田社長は「2020年度より損失改善のフェーズに入った」と強調する。ただ、W杯放映権料やそれに伴う広告費などを鑑みると、今2023年9月期は再び赤字が拡大する年になりそうだ。同社の宮川園子IR室長は「放映権料を含めたW杯関連費用は第1四半期(10~12月)ですべて計上する予定」だと話す。

黒字化には売上高を倍増させる必要性

ここで問題となるのは、アベマがゲーム事業での稼ぎに頼る構図から脱し、投資回収フェーズに本当に入れるのかということだ。いちよし経済研究所主席研究員の納博司氏は次のように指摘する。

「今回のW杯で大きな視聴数を集めたことで一定の評価を受けたのはよいが、求められるコンテンツのレベルが上がった。上がったハードルを下げるわけにはいかず、今後もレベルの高いコンテンツを調達していく必要がある。決して楽観的には見ていない」

実際、メディア事業全体を黒字化するには現状の2倍近い2000億円前後の売り上げが必要(2022年9月期実績は1121億円)とみられる。そうした状況で、黒字化に向けた収益源として大きな期待をかけているのが「周辺事業」だ。

周辺事業の1つとして藤田社長が強調したのが「WINTICKET」という競輪・オートレースのインターネット投票サービス。アベマの開始と併せてゼロから始め、5年程度でインターネット投票のトップシェア36%を獲得している。