最もわかりやすい解釈の例は、物事の「善悪」や「正誤」です。世の中の事象に、絶対的な善悪や絶対的な正誤というのはほとんどありません。したがって、何かを語るときにポジティブあるいはネガティブな見解が入っている場合には、それはその人なりの解釈が入ってしまっていると考えるのが妥当です。
似たような言葉に「常識」「非常識」があります。この言葉が出てきたときも要注意です。常識とは固定化された解釈そのものを意味するからです。
事実をありのままに見るためには、事実と解釈とを切り分けて考えることが重要になってきます。「事実」というのは、人によって解釈が変わらないもののことです。
例えば「A社の売上が昨年は○億円だった」というのは事実ですが、そのA社の昨年の売上を見て、例えばある人は「競合のB社に比べてだいぶ伸びが悪かった」と思うかもしれません。別の人にしてみると、「前評判のわりには意外によかった」と思うかもしれません。その解釈というのは人の数だけ存在するということです。
このように、事実をありのままに見るためには、人によって異なる解釈の部分を切り離して観察してみることが重要であると言えます。
思考力を養う上で、「つなぐ」という考え方は非常に重要です。個別の情報や事実、あるいは経験や知識をつなぎ合わせることで新しいアイデアやメッセージを生み出すのが考えるということです。
思考力の土台に「疑う心」があると前述しました。ここからは、もう1つ思考力を支える重要な考えについて説明していきます。
キーワードは「上位概念」です。上位概念というのは、下位概念との比較で、「上と下」という軸によって説明できます。「下位と上位の概念を往復してつなげる」というのが「考える」ということなのです。例えば、「具体と抽象」の関係は下位と上位の概念の関係です。一般的に「上位概念」と言うときには、「抽象レベルが高い」ことを意味する場合もあります。
個別に1つ1つ考えるのではなく、共通するものをまとめて抽象レベルを上げて一般化するというのが抽象化の考え方です。
「2つの推論方法」として、帰納的推論と演繹的推論という方法があります。帰納的な考え方というのは、1つ1つの具体的な考え方を一般論にするということで、抽象化の典型的な例です。
逆に「抽象的な概念を具体的な個別の例に落としていく」という「具体化」が、演繹的な考え方の1つの表現方法です。このように、論理的な推論も上位概念と下位の概念をつないで往復していくというステップを踏んでいます。
同様に、手段と目的の関係も下位概念と上位概念の関係です。1つの目的には複数の手段があります。これら複数の手段をつないで関連づけるのが、「上位の目的」というように考えられます。
「手段と目的」の関連づけの例を挙げてみましょう。先述のとおり、ある上位の目的に対して、1つの手段があったときに、「目的が同じであれば他の手段も利用可能」という観点で選択肢を列挙する場面に応用できます。
例えばここでの「手段」が、ビジネスの現場における情報システムの導入だとします。しかしながら、情報システムを導入するという場合には必ず、上位の目的である、「コストダウン」や「業務の効率化」などが存在するはずです。それなら、例えばITではなく別の形でコストを下げようとか、もしかするとIT導入より低コストで実現できる別の手段も考えられるということです。