説明下手な人が陥りやすい欠点として、まず挙げられるのが「話の順序」です。
説明する側が話している順序と、聞き手が内容を受け取りやすい、聞いていて理解しやすい順序にズレがある場合、聞き手の視点では「ダラダラと話している」「何を言っているのかわからない」と評価されてしまいかねません。
説明の基本構造は、説明する側から聞き手への情報の流れです。時には説明の内容が詳細かつ具体的で、膨大な量になることもあります。
いくら焦っていたとしても、急に具体的な話をピンポイントで始めても、相手はまず受け取れません。全体のストーリーの中でその話がどの位置にあるのか、どのくらいの重要性があるのかがわからないからです。
その際にうまく進めるテンプレになるのが、「抽象(ざっくりした大枠)から具体へ」という流れを守ること。さらに、「抽象→具体」と展開した流れを再び「抽象」に戻し、いわば往復することで、説明力をフックにして考える力までアップします。
警察や消防に通報すると、まず相手から「事件ですか? 事故ですか?」「火事ですか? 救急ですか?」と聞かれるそうです。通報者は焦っていることが多く、見たままの状況を断片的に説明し始める場合が多いため、一刻一秒を争っているのに全体像を素早くつかめません。そこでまずは「事件か事故か」「火事か救急か」という抽象度の高い情報を聞き取り、その後の行動を絞り込むわけです。
説明もまったく同じです。「この場の説明テーマ」を共有したら、最初に何の話をし、次に何の話をして、最後に結論として……などと、具体的な説明に入る前に一通り抽象度の高い情報として整理しておくと、聞き手もわかりやすくなります。このテンプレは、常に役立ちます。
実はこのテンプレを身に付けると、ビジネスパーソンとしての能力そのものも鍛えられます。情報を整理して見出しをつけるような思考は、さまざまな具体的要素から、共通しているポイント、一般的な概念を見つけ出す訓練になり、ビジネスでも有効な大発見にもつながります。
たとえば新製品・サービスの開発に関わっているとします。そのままでは抽象的ですが、いろいろと探ってみると、量販店の売上データではAが流行している、Bが最近SNSで叩かれている、Cという番組の視聴率が高い、Dという本がベストセラーになっている、当社のEという商品の注文が急増している……といった、多岐にわたる具体的な情報が集まりました。
そこで、これらの具体を再び抽象化すると、世の中的には今こんな流れがきているといった背景が見えるようになるわけです。その結果を、具体的な施策にしていきます。こうした「具体⇒抽象⇒具体」という、往復ができると、成功の可能性や再現性の高い仮説がどんどん生み出せます。これは、やがて大きな力の差になります。
「抽象→具体」、つまり具体化力は、アイデア出しのようなイメージです。集められるデータは入手するとしても、無限大に調べるわけにはいきません。そこで役立つのが「制約を作る」という手法です。「○○ではどうなっているか?」という方向で課題を探し、情報を探るテクニックが有効です。