野球やラグビーなどのチームにおける心理的な側面からのコーディネートや、個人のパフォーマンスを上げるサポートを行うのが、スポーツ心理学の役割です。
実際に行っていることは、『Chatter(チャッター)』に書かれていることと深く通じることが沢山あります。
本書に、日記を書くことの効能が取り上げられていますが、実際トップアスリートにも、自分のノートに日々のことを書き込んでもらっています。
例えば、日本代表ラグビーの齋藤直人選手は、自分のラグビーノートを持っていて、そこに、今の自分には何が起きていて、どんなことを不安に感じるのかを毎日書いています。
そして、「齋藤直人、こういう時はどうするんだ?」と客観視し、自分に語り掛けるということをやっているのです。この点は、本書の内容とまったく同じです。
野球の社会人日本代表チームは、専用の野球ノートを作っていて、選手全員が、自分のノートを持って遠征しています。
「チャッターから逃げる」のではなく、視点を変えたり、問題からあえて離れたりすることが大事と書かれていますが、ここは重要なところですね。
ネガティブなことからは逃げられません。よく「ポジティブになろう」と言いますが、勘違いです。トップアスリートは、そう簡単にポジティブにはなれません。
特に、試合前日になると、こんなことが起きるかもしれない、こうなったら困る、ということがたくさん頭を巡って、非常にネガティブになっています。
しかし、実際には、そういう人ほどいい選手なのです。
ネガティブな思考を無理やり押さえ込んでしまうと、実際にそれが本番で起きた時、対処できなくなってしまいます。不安に向き合って、リスクを想像して対処する方法を想定しておかなければ、いいパフォーマンスは出せません。
ですから僕は、いい選手のことを「ネガティブな人」ではなく、「リスクマネージメントができる人」と言っています。
アスリートだけでなく、ビジネスパーソンでも、パフォーマンスの高い人ほどネガティブなことに目を向けることができますし、対処ができている人が多いと思います。
プロのアスリートは、不安に思うことをノートに書き出しながら、「このような場面になったとしても、最低限、これができるのではないか」という最低目標を作っていきます。