私たちが部下や同僚の「活躍」を素直に喜べない訳

そして多くの社長は内部昇進で、いわば「社員の代表」あるいは会社という「共同体の長」といった性格が強い。そのため自分の保身だけでなく、会社全体のため、全社員のためにも安定を重んじる。だからこそ一方で「挑戦」を唱えながらも、リスクを冒しての挑戦は避けようとするのだ。当然ながら、トップのそうした姿勢や考え方は会社全体に浸透し、一種の組織風土となる。

部下の失敗も成功も嫌な中間管理職

次に中間管理職の立場に立ってみよう。ミドル層が年齢的にも、地位の面でも保守的になることはすでに述べたが、それだけではない。部下が失敗すると管理職である自分の責任になるので、リスクをともなう挑戦は好まない傾向がある。

しかも部下に無謀な挑戦をされると、自分が部下を管理できていない印象を上層部に与えてしまい、管理能力を問われる恐れがある。逆に部下が挑戦して成功を収めたら、部下の存在感が高まり、自分の顔がつぶれるかもしれない。いずれにしろ、本音としては部下の挑戦を手放しでは喜べないのである。

ただ、一方には実績をあげるため高い目標を掲げ、積極的に挑戦しようとする管理職もいる。しかし多くの場合、その過程では部下を巻き込むことになる。部下自身が挑戦することにメリットを感じず、「挑戦しないほうが得」だと考えていたら、アグレッシブな管理職の姿勢は部下にとって迷惑でしかない。手柄を独り占めするような管理職ならなおさらだ。

そして、最も迷惑するのが同僚どうしである。ここでまた「2022年ウェブ調査」の結果を見てみよう。まず「自分から新しいことに挑戦するチャレンジ精神にあふれる新人に入ってきてほしいですか?」という質問に対しては、「どちらかというと、そう思う」という回答が70.9%を占める(図3-1)。会社全体のためには、チャレンジ精神のある人が必要だと考えている人が多いのだろう。

ところが「同僚として積極的にチャレンジする人と、周りとの調和を大事にする人のどちらを好みますか?」という質問には、「どちらかというと周りとの調和を大事にする人」という回答が68.2%と7割に迫る一方、「どちらかというと積極的にチャレンジする人」は31.8%にとどまる(図3-2)。

そこで「どちらかというと周りとの調和を大事にする人」を選択した人に、その理由を述べてもらった。すると、つぎのような回答が返ってきた。

「もめ事を起こしたくないから」(35件)
「面倒を起こしたくないから」(17件)
「楽だから」(16件)
「何となく」(33件)

そのほか「仕事がやりやすい」「付き合いやすい」「楽しく仕事をしたい」「巻き込まれたくない」「空気を乱されたくない」「ストレスを感じない」「付き合いやすい」という回答もそれぞれ複数、計33件あった。

これらの回答は、いずれも個人的な損得や感情を表していると解釈できよう。要するに回答した456人のうち約3割(29.4%)に当たる134人が、個人的な理由からチャレンジする人を歓迎していないわけである。そして、その大半が相手から受ける迷惑を理由にあげていることがわかる。

会社にとってはチャレンジングな人材が必要だが、同僚としてはあまり歓迎しない。いわゆる「総論賛成、各論反対」なのだ。なお、この「総論賛成、各論反対」という本音こそ日本の組織を語るうえで重要な意味を持っている。

サボったらダメだが、がんばりすぎてもダメ

職場の人間関係に関する有名な古典的研究として知られているのが、「ホーソン研」「ホーソン実験」である。アメリカのウェスタン・エレクトリック社ホーソ工場で行われたこの研究(実験)では、職場の中に制度として定められた公式組織とは別に仲間同士の非公式な組織が存在し、その中で形成される暗黙の規範が生産性を左右していることが明らかになった。

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その規範とは、サボってはいけないが、がんばりすぎてもいけないというものだ。だれかがサボると、ほかの仲間の足を引っ張るので迷惑をかける。逆にがんばりすぎても、ほかの人が同じようにがんばらなければならなくなるので迷惑になる。したがってサボりもがんばりすぎもしない、「そこそこ」の働き方が要求されるわけである。

これはアメリカで行われた研究だが、仕事を進めるうえでも、イデオロギーの面でもいっそう集団主義的な性格が強い日本企業では、暗黙の規範による束縛はいっそう強いと想像される。