実は仕事嫌いで毒舌、紫式部が書いた「悪口」の中身

紫式部
優雅なイメージのある紫式部ですが、かなり毒舌です(写真:りうん/PIXTA)
日本の古典文学というと、学校の授業で習う苦痛な古典文法、謎の助動詞活用、よくわからない和歌……といったネガティブなイメージを持っている人は少なくないかもしれませんが、その真の姿は「誰もがそのタイトルを知っている、メジャーなエンターテインメント」です。
学校の授業では教えてもらえない名著の面白さに迫る連載『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』(毎週配信)の第6回は、源氏物語の作者で、2024年のNHK大河ドラマの主人公でもある紫式部の『紫式部日記』について解説します。
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2024年の大河ドラマは、なんと紫式部が主人公らしい。

なんと紫式部を演じるのは吉高由里子さん。そんな豪華なキャストで、平安時代の宮中が大河ドラマの舞台になるなんて!と胸をときめかせた人は少なくないはずだ。

もちろん筆者もその1人。私が大学院で研究していたのは万葉集だが、古典好きの例に漏れず、平安時代はもともと大好き。平安時代の豪華絢爛な宮廷文化が、大河ドラマのクオリティでみられるなんて楽しみすぎる!と今からわくわくしている。

しかしその前に、ぜひ予習しておきたいのが、『源氏物語』。源氏物語といえば、もはや説明のいらないほどに有名な古典文学。日本で最も有名な「名著」は、もしかしたら源氏物語かもしれない。そして同時に、実は日本で最も有名なわりに、最も読破されていない「名著」もまた、源氏物語なんじゃないか?と私は思っている。

現代語訳をすべてそろえて読み始めたけれど……

この記事を読んでいる人のなかで「ふふん、何を言うのやら。私は源氏物語を最初から最後まで読み切りましたよ」という人がいたら……私はひれ伏したい。私も、源氏物語のすべては読破できていないからである……。

というのも、私が国文学を勉強していた大学時代。さすがに源氏物語を読み切っていないのはまずいと思い、現代語訳をすべてそろえた。図書館でぱらぱらとめくった結果、とりあえず瀬戸内寂聴さんの訳がいちばんわかりやすそうかな?と思い、源氏物語を読み始めた。

しかし私の源氏物語の旅は、宇治十帖の途中で終わりを告げたのだった。言い訳ですけれど、光源氏が死ぬまではともかく、死んでからもけっこう長いんですよね、源氏物語……。

私と同じように、源氏物語にチャレンジして、挫折した仲間、実はいるんじゃないだろうか。チャレンジしたことのある方も、チャレンジしたことのない方も、ぜひ本連載で私といっしょに源氏物語に入門してみてほしい。そして2024年の大河ドラマに備えましょう!

源氏物語を読む前に注目したいのが、紫式部の人となり。紫式部は宮中の行事を記録した日記を残しており、現在『紫式部日記』として読むことができるのだ。

紫式部は当時、中宮彰子(藤原道長の娘)の女房として仕えていた。が、実は彼女だってもともとはそんなに身分は低くなく、地元では蝶よ花よと育てられた身。しかし紫式部は、夫と結婚し一児の母になったと思いきや、夫が急死してしまうのだ。

こないだまでそこそこの身分のお嬢様だったのに、突然未亡人になり、そして突然「宮中で働かない?」とスカウトされた紫式部。女房として働き始めた彼女にとって、宮中での生活は、苦労も多い場所だったらしい。

現代の私たちと同じように、「ああ仕事いやだ~」と嘆いている日記が残っている。

「寒い、寒い、もうこんな仕事いやだ」

例えば、中宮彰子が、私邸から内裏へ帰ってきた日のこと。里帰りに一緒に着いていった紫式部は、中宮が内裏へ戻るタイミングで一緒に帰って来る。しかし帰ってきたらもう夜も更けていた。……京都の冬の夜、そのへんの部屋でとりあえず寝ようとするにも、寒い。紫式部は同僚と一緒に「寒い、寒い、もうこんな仕事いやだ」と愚痴を言い合っている。