「面白い人」だけが知る誰もが使える笑いの法則

笑いの手法も覚えておくといいですね。いろいろありますが、すべては使いこなせないと思うので、本書でも解説されている「コールバック」、つまりお笑い芸人の世界で言う「天丼」がいいと思います。

「天丼」とは、面白いことがあったら、それを何度か繰り返して笑いを起こすというものです。

笑いは、雪だるま式に大きくなっていきます。最初からドカンと大爆笑になるのではなく、「クス」という小さな笑いから始まります。

プレゼンで、いきなり渾身のボケをして、すべって傷ついて、真っ赤になってしまうおじさんがいますが、振りかぶりすぎだと思うんですよね(苦笑)。

プレゼン開始から15秒以内に「つかみ」として、「クス」をとっていくようにすると、その場にいるみなさんの心をつかむことができて、この人の話を聞きたいなとなるのです。

ですから、いきなり大きな笑いをとろうとするのではなく、「クス」をどうとるかを考えるといいですね。「本気でボケてませんよ、笑ってくれる方だけどうぞ」というスタンスでいれば、気負わずにやれるとも思います。

センスや才能の問題もありますから、勉強してテレビで活躍している芸人のように面白くなれるかというと別ですが、筋トレのようにトレーニングを積み重ねることで、職場で「面白い」と認知されるレベルになることは十分可能です。

「自虐と毒舌」成立する人、しない人

1つ重要なところは、笑いのなかでも、「自虐ネタ」や「毒舌」は、機能しない場面があるということです。

自虐が唯一機能するのは、自分が上の立場で、相手が自然と萎縮してしまうケースだけです。「あなたのような方が、そんなことを言ってくれるんだ」と受け取ってもらえるからです。

反対に、若手が自虐をすると、本当にダメな人間に見えてしまったりします。この構造はちゃんと理解しておきたいところですね。

また、毒舌も難しくなってきています。かつては、女性に対して「ブス」と言って笑いをとることがありましたが、性差別の問題や、多様性を認めようという世の中の風潮もあり、コンプライアンスが厳しくなって、今では不可能です。

そんな中で、毒舌が唯一許されているのは、マイノリティという立場の人ですね。例えば、マツコ・デラックスさんが、なぜ毒舌で成立するのか。それは、彼がセクシャルマイノリティだからです。

実際にはとても社会的地位の高い方ですが、一般の人々からは低く見えているので、何を言っても、上に対して噛みついている下剋上に映る。だから、成立しているのです。

僕も、毒舌が許されるタイプです。見た目はカッコよくもないですし、身長も163センチしかありませんから、下の者が上に噛みついている感じに自然と認識されますよね。もし喧嘩になったらどうせ小さくて弱いだろうから、ボコボコにしたらいいだけと相手も思っていると思います。つまり、誰かに噛みついてもいい立場として認識されることが多いです。

でも、木村拓哉さんが毒舌だったら、「なんだコイツは?」という感覚になり、見ていられませんよね。

毒舌の「パチンコ玉」理論

そのような構造があるわけですが、実は今は、マツコさんも毒舌が減っています。タレントとして立場が上になって、毒舌が下剋上に見えなくなってきたのです。

立場によってユーモアは使うべきものが変わりるわけです。そして、自分の立場や影響力は、知らぬ間に変わってしまうので注意したほうがいいですね。

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以前は毒舌で通用していたけど、立場が上になったのに部下のことを毒舌でいじっていると、パワハラになってしまいます。

弊社では、これを「パチンコ玉理論」と呼んでいます。隣の人からパチンコ玉を投げられても痛くありませんが、ビルの上から落とされると、当たった人は死んでしまうかもしれません。

同様に、社内の同期から「バカだな」と言われてもどうもありませんが、急に社長から「バカだな」と言われたら、それがいくら冗談でも、本当にバカなんじゃないかということになってしまう。

ですから、ビルの上層階にいる立場の人こそ、毒舌ではなく、意図的に自虐を使うことが大事だと僕は思っています。

(構成:泉美木蘭)