動きながら考える人が動かない人より成果出る訳

スウェーデンの天才が「動きながら考える」を強く薦める理由とは(写真:takeuchi masato/ PIXTA)
『運動脳』を上梓したアンデシュ・ハンセン氏は、「アイデアを考えるとき、歩いたり走ったり、有酸素運動をするとひらめく確率が上がる」と話します。体を動かすことで脳の血流が増え、思いつく確率が上がる――同書より、動きながら考える効能について、一部抜粋・編集してお届けします。

「どこで運動するか」は問わない

運動すると創造性が増すことは科学的に立証されている。スタンフォード大学の研究チームの実験がある。

この実験には176名が参加し、創造性を測る数種類のテストを受けた。被験者たちは、屋内や屋外で歩いたり、座って体を休めたりといった様々な条件下でテストを受ける。

この研究論文のタイトル「アイデアを歩かせよう:創造的思考におけるウォーキングの効能」が、結果をそのまま表している。被験者が歩きながらテストを受けた場合、5人に4人の割合で好成績を挙げたのだ。とくにブレインストーミングと新しいアイデアを出す能力で、歩きながらテストを受けた被験者のスコアは、歩かずに受けた被験者を約60%も引き離していた。

環境の変化に刺激を受けると、普段とは違った考え方ができるようになるという説もある。しかし、スタンフォード大の研究では、創造性が増すのに歩いた場所は関係ないと確かめられている。

実験では、大学のキャンパスを歩いた者もいれば、屋内で灰色の壁とにらみ合いながらトレッドミルの上を歩いた者もいた。それでも、両者ともに創造の力は増していた。何名かの被験者は、車椅子でキャンパスの遊歩道を動きまわった。創造的な思考力を高めたのが、環境でなくウォーキングであることを確かめるためだ。この被験者たちは体を動かさないで、屋外を歩いた人たちと同じ環境にいたことになる。

結果、同じ屋外グループでも、車椅子のグループより歩いたグループのほうが創造性が増していた。創造力を高めたのは環境ではない。大切なのは歩いたり、走ったりすることで、場所はどこでもよいのである。

スタンフォードの「創造力」リサーチ
(出所)『運動脳』(サンマーク出版)

創造性を増すには、ウォーキングよりもランニングか、もしくはそれと同じような活動により効果があるといわれている。少なくとも30分は取り組む必要がある。とはいえ、先のスタンフォード大の結果でもわかるように、ウォーキングにも効果はある。

運動で高まった創造性はどのくらい維持できるのか。創造性が高まる効果はあくまで短時間。創造力の上昇は1時間から数時間で、その後徐々に消えていく。もう一度インスピレーションを得たければ、また歩くか走るよりほかない。
一方、疲れるまで運動すると逆効果になる。運動を頑張りすぎた被験者は、そのあとの創造性のテストで成績が芳しくなかった。

運動すると脳に流れる血液が増える。それにより脳の働きが促進され、認知能力が向上して創造性も増す。だが疲れるほど運動すると、脳の血流量は逆に減る。血液が脳から筋肉へと流れを変えるためだ。

運動によって創造性が増すことは、多くのイノベーターが身をもって証明している。アルベルト・アインシュタインは、自転車を漕いでいるときに相対性理論を思いついた。ベートーヴェンはたびたび仕事の手を休めては、着想を得るために長い時間、散歩したと言われている。

チャールズ・ダーウィンは「ダウン・ハウス」という名の屋敷の周りの散歩道(彼はそれを「思索の小径(thinking path)」と呼んだ)を何時間も歩いて過ごした。進化生物学において最も重要な文献『種の起源』の着想を発展させた時期こそが、ここを散歩していた頃だという。

ジョブズの「歩きながら」会議

最近の例としては、アップル共同創業者スティーヴ・ジョブズはしばしば歩きながら会議を行った。彼は会議室のテーブルを囲んで話し合うよりも、歩きながら意見を出し合うほうが成果はあると考えた。

運動脳
『運動脳』(サンマーク出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

ジョブズのやり方には、フェイスブック(現メタ)創業者のマーク・ザッカーバーグや、Twitter創業者ジャック・ドーシーら、シリコンバレーの多くのビジネスエリートたちが共感を覚え、ウォーキング・ミーティングを取り入れている。

運動は、できるだけ多くのことを想起する「発散的思考」と、唯一の正解にたどり着く「収束的思考」の両方にプラスに働く。アイデアの「量」「質」ともにアップするのだ。考えごとがあるときは、ぜひデスクから離れて通勤や帰宅の時間、思索を試してみてほしい。「歩きながら考える」、きっと妙案にたどり着ける。