各エピソードの見せ場に至っても、白黒はっきりさせる裁判結果だけに集中していません。例えば、「脱げたウエディングドレス」の話では依頼人のカミングアウト、「3兄弟の対立」話では裁判後の折り合いに目を向けます。裁判を通じて登場人物たちが気づきを得て、納得したときに山場を持っていくのです。
「ひとたびウ・ヨンウが事件を担当すれば、視聴者がこれまで見たことのないような展開になります」と、脚本を担当したムン・ジウォンが言い切る通り、期待を裏切りません。韓国の公共支援機関であるKOCCAの作家育成事業をきっかけに約10年前、作家デビューしてから活躍を続ける脚本家の手腕が発揮されています。
視聴者の反応も上々です。6月下旬にNetflixで配信が始まると、Netflixの英語以外のTV番組のグローバルTOP10リストで2週連続1位を獲得します。韓国、香港、インドネシア、マレーシア、シンガポール、台湾、タイ、ベトナムのTOP10リストで1位を獲得し、その他14の国や地域のTOP10リストにもランクイン。好スタートを切ります。
その後も好調を維持しています。日本でもTOP10リストの1位に浮上した後、トップを独走しています。TOP10リストにランクインする国も増え続け、地域は中南米やアフリカ、オセアニアにまで広がり、その数は50か国近くに上ります。最終話の配信に向かって、さらに記録が更新されそうな勢いです。
優しさ溢れるドラマの世界観とは裏腹に、激しい競争に打ち勝つために利益を追求するビジネス面においても「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」は注目されています。世界配信するNetflix以上に、企画制作元である制作会社スタジオの利益を上げるビジネスモデルになっているからです。
企画したのはNetflix韓国の最初の成功例と言われる「キングダム」を手掛けた「A STORY」です。「愛の不時着」の「スタジオドラゴン」と並ぶ、グローバル展開に積極的な韓国の制作会社の1つでもあります。
関係者の話によれば、「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」は予算的に大掛かりな作品ではないため当初、A STORYはNetflixではなく、韓国の地上波テレビ局に企画を持ち込んだものの断られたと言います。その理由は定かではありませんが、編成上の都合だったとか。ありがちな法廷ドラマと見られたのかもしれません。
そこでA STORYは韓国通信大手KTグループ傘下の「KTスタジオジニー」との共同制作にこぎつけ、KTグループのケーブルテレビ「ENAチャンネル」で韓国国内展開を決めます。そして、世界配信権についてはNetflixが購入するに至ります。
つまり、Netflixにすべての権利を受け渡したのではなく、権利ビジネスの采配はA STORYらが握っています。交渉が進んでいるアメリカでのリメイク化の権利も、ドラマを原作にウェブ漫画化されて得られた利益など、展開が広がるごとに企画制作元が潤うモデルです。
もともと、2次利用の権利ビジネスとして成立していたモデルではありますが、Netflixの価値も利用しながら、企画制作元も優位に立っていく新しい流れを作り出していると言えるものです。それによって、さらに良作を生み出し、次の良作へと繋げていけば、視聴者にとっても利益になる話です。「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」はそんな新たな成功事例になる力もあるのです。