その後もライブ事業などを原動力に業容を拡大したエイベックスだが、東方神起が一時的に活動を休止した2015年ごろから、足踏み感が出始める。そして2018年には、「平成の歌姫」として長年活躍した安室奈美恵が引退を発表。さらに現在はコロナ禍、AAA(トリプルエー)の活動休止など、新たな打撃も重なる。
「1990年代から2000年代にかけ、当社には非常に多くの“貯金”があり、(経営上は)それをこなしていけばいいんだという時期があった。気づいてみると、われわれがゼロから何かを作っていくというのが、会社ごとになっていなかった感がある」
エイベックスの黒岩克巳社長は東洋経済の取材に対し、近年の不振についてそう反省を語る(詳細は黒岩社長のインタビュー記事:エイベックスは「全盛期の輝き」をどう取り戻すか)。
5月に発表した中期経営計画でIPの発掘・育成に重点を置いたのはこのためだ。主要施策では、今後5年間でアーティストのほか、フェス・イベント、アニメ関連のIP創出に250億円を投入することを明記している。
冒頭に挙げているアーティスト育成に関しては、新たな育成機関「avex Youth」を2022年7月に立ち上げた。「世界基準のヒットを作れるような環境をわれわれが提供していく」(黒岩氏)といい、単に歌やダンスを磨くだけでなく、海外でも愛されるための必須要件である語学や文化的背景も身につけられるよう、留学プログラムなども用意する。
avex Youthのもう一つの特徴は、「出口戦略」を明確にしたプロジェクト形式で運営する点だ。
avex Youthに先立って約5年前に開始し、XGを輩出した「XGALX」プロジェクトは、「ダンス&ボーカル × グローバル」というコンセプトで活躍できるよう、初期から方向性を明確にして育成に取り組んできたという。今後は同様の手法で複数のアーティストを展開していきたい考えだ。
XGを見ても、エイベックスが「出口戦略」を重視していることがうかがえる。顕著なのが、海外、とりわけK-POPを強く意識している点だ。
プロデューサーは韓国を中心に音楽活動を展開してきたSIMON(サイモン)氏が務めており、歌やダンスなどのレッスンにおいても、”韓国式”を多く取り入れたという。さらに「MASCARA」のリリース翌日からは立て続けに韓国の音楽番組に出演。前述のとおり、SNSの公式アカウントの発信も英語、韓国語を中心に行っている。
「すべて韓国をまねするというのではないが、研究して、いいところを取り入れたい。エイベックスはアメリカ・ロサンゼルスにもスタジオを持っており、現地の要素を取り入れながら、日本的なオリジナリティを持ったアーティスト・作品を出していけるのが理想だ」(黒岩氏)
ただし、黒岩社長自身もこうしたプロジェクト形式のアーティスト育成について、「未知の領域なので、(すべてがヒットする)確信はない」と話す。XGもスタートダッシュは切れたものの、今後世界的なヒット曲を継続的に出せるか、エイベックスの業績にプラスに貢献するかは未知数だ。
一方で黒岩社長は、「韓国のエンタメ企業のように、日本からもアジア市場、世界市場に打って出るアーティストを作っていきたい」と意気込む。日本のエンタメ業界の老舗は、再び存在感を高めることができるか。
黒岩社長のインタビュー記事:エイベックスは「全盛期の輝き」をどう取り戻すか