「想像以上に凄い!」アマゾンのリーダー育成研修

「みなさんは電球会社の社員です」

用意された役職はCEO、その下にVPが何人か。そしてセールス、オペレーション、マーケティングのVP。そしてその下にはディレクターが大勢ついています。ほかにも電球工場の工場長が2人いたり、マーケティングのディレクターがいたり、セールスのディレクターがいたり。好きな役職を選べるので、私は実際にはやったこともないマーケティングのディレクター役を希望し、許可されました。

そして封筒に入った分厚い書類を渡されました。なにやらその架空の会社で交わされたメールの文面を印刷したものです。これを読んでいくと、その会社の抱える問題が見えてきます。

そしてその晩はメールの束を読み込んで、自分なりに問題を分析してから、次の日のロールプレイに臨みました。

次の朝は、研修担当者の、

「すでにメールを読んで、情報を得ていますよね。では、必要だと思う行動を取ってください」

という言葉からスタートです。

私はマーケティングの担当者として、こんな作戦を立てていました。

「いまはとにかく売り上げが落ちている。売り上げを増やすには、まず電球を増産しなければいけない」

そこで工場長役の人のところに、増産を頼みに行きました。

「いま、輸出用の電球が売れているんだよ。だから増産しないといけない。君の工場のラインに変更を加えれば、おそらく増産できるはずだ。やってみてくれないかな?」

ところがです。工場長役の人が、

「何言ってんだよ。昨日、うちの工場から有害物質が流出したんだ。いま国の捜査官が来ていて、工場はシャットダウンだよ」

と言うではありませんか。

私が昨日受け取ったメールの束には、そんなことは一言も書いてありません。でも工場長役の人のメールには、そう書いてあったのです。

「そうか。これは昨日思い描いたシナリオが通用しないということだ」

と気づきました。私だけでなく全員が、まったく動きが取れなくなってしまったのです。

つまり、身動きがとれなくなったときこそ、次の行動が取れるかどうかが、リーダーとして大事なことだから、それを学びなさいということだったのです。

あえて身動き取れない状況にさせる

しかし、これだけたくさんの問題が同時に起きると、本当に手も足も出ません。セールスやオペレーションの担当ならば、まだ打つ手があるけれど、私はマーケティング担当だったので、何も打つ手を思いつきません。

これは困ったと思い、私はほかのチームに話を聞いてみようと思いました。ほかのチームと情報交換をすることは特に禁じられていなかったので、「マーケティングだけで、ちょっと話さない?」と言って相談することにしました。

話してみると、彼らも私とまったく同じ状況で、何をしていいかわからずパニックに陥っています。

「でも、この状況下でもこういうアプローチはできるんじゃないか」

「じゃあ、それをやってみよう」

ということになり、それぞれ自分のチームに戻りました。

そんな経緯を経て、最終的にリーダーたちが集まって1つの会社としての結論を出します。それをCEOのところに持っていくまで、おそらく4時間程度。

そのあいだ、研修の講師はメモをとりながら、誰がどんな発言をして、何をしたかをすべてチェックしています。

CEO役の人はAチーム、Bチーム、Cチームの中から、どのチームの提案がこの会社にとっていちばん正しい提案かを選び、その日の研修は終わりました。

次の日は、講師からのフィードバックがありました。

厳しいことはそれほど言われませんでした。どちらかというと褒められるほうが多かった。でも指摘されたことが的を射ているだけに、こたえました。

「あのときこういう方向に行こうとしたけど、あれは違うと思う」