S、M、Lでのサイズ展開が基本の衣服に対し、靴は23~28センチまで0.5~1センチ刻みで展開されることが多く、1アイテム当たりの在庫量は必然的に膨らむ傾向にある。店頭陳列やバックヤードでの保管においても、たたんで重ねられる衣服と比べ、靴はかなりのスペースを要する。
また、ワークマンでは従来、靴の売り上げのおよそ4割を占める安全靴が圧倒的な売れ筋商品だった。新たにカジュアル靴を投入するには、それだけ他商品の陳列を減らすか、店舗面積を広げる必要がある。
「職人向けの靴は一定の顧客基盤があるため、商品開発をすれば売り上げを確保できる。売れ筋商品の売り場を割いてまで、ほかの靴の開発をするべきかという議論があった」(ワークマンの大内康二・商品本部長)
潮目を変えたのが、新業態であるワークマンプラスのヒットだった。一般顧客が大幅に増え、カジュアル靴の開発への大きな後押しとなったのだ。
一般客に訴求するため、3つのプライベートブランドが立ち上がったことも追い風だった。「それまでワークマンでは“トータルコーディネート”という考え方がなかったが、各ブランドの服に合う靴が必要になり、開発が進んだ」(ワークマンの青木氏)。
在庫管理においても「作業靴の販売ノウハウがカジュアル靴でも生かせる」と、土屋専務は自信をのぞかせる。
そのノウハウとは、バックヤードで在庫を保管するリスクやコストを極限まで減らすため、作業靴などの一部商品で徹底している「売り切れ御免」主義で培ったもの。だが、多くの商品で品切れ状態が続いていては、逆に顧客は離れてしまう。そこでポイントとなるのが、980円の商品だ。
作業靴の看板商品である980円の安全靴は、ワークマンの店頭でつねに在庫を確保するように調整している。「他社が真似できない価格優位性があり、お客さんの引きも強いベーシックな商品が重要だ」(土屋専務)。カジュアル靴の場合、980円のキャンパス地スニーカーがこの“マストアイテム”に当たり、品切れさせないようにするという。
商業施設内で展開しているワークマンシューズは今後、単独路面店での出店も目指す。そのために靴のアイテム数を現在の62から150以上に広げる方針で、継続的な商品開発がカギを握る。
現在展開している靴の価格帯は980円~2900円だが、「商品の幅を広げるため、3900円以上の靴も開発していきたい。ただ、その価格帯ではナショナルブランドなどと差別化を図れるかが難しい」(ワークマンの大内氏)。価格帯が上がるほどブランド力を持つメーカーとの競争が厳しくなり、価格に見合った斬新な機能性を打ち出せるかが肝になる。
靴専門店の牙城に食い込むべく始まった挑戦。ワークマンの十八番である、高機能商品の開発力と店舗運営マニュアルの磨き上げがいっそう重要となりそうだ。