結局、リモートワークも面談や商談のオンライン化も、慣れの問題だったことがわかる。慣れてしまえば、導入メリットを享受したことで、元には戻れない。そのため、このような働き方に柔軟性を持っている会社では、「3年3割辞める」は減る傾向にある。しかし、逆にリモートワーク、オンライン化を進められない職場の退職率は上昇する可能性がある。
業態上、オンライン化が難しい職場があることも理解している。だが、中には「コロナ禍以前の職場にただ戻りたい」と考える会社もある。そのような理由でオンライン化をやめてしまうと、一度便利さを知り、慣れてしまった社員は、若手社員に限らず、中堅、ベテラン社員ですらも離れてしまう可能性がある。
3年以内離職率を考える上で「キャリア観の変化」も無視できない。以前から「終身雇用の崩壊」「ジョブ型雇用」「副業」といったキーワードで語られているキャリアを取り巻く環境変化により、各個人が考える「キャリア観」は変わってきている。
厚生労働省や総務省の調査は、2020年度(コロナ禍前もしくは直後)のデータしかないため直近でのデータ検証は難しいが、下記のような傾向がある。
実際に転職できるかどうかは、受け皿である「求人の量」に関係する。コロナ禍直後は企業の先行き不安から求人の量も減り、転職マッチング数が減ったと考えられる。
ただ、着目したいのは「転職希望者は増加している」という点だ。転職はできていないが、「転職したい」と思っている人が増えていることがわかる。実際に転職支援の現場で働いていると、コロナ禍以前から増えている「キャリア観の変化」に影響を受けた転職希望者の声を次のようによく耳にする。
コロナ不況の影響も軽減され始め、転職市場では求人も徐々に増えてきている。転職希望者に対して、これからは転職先となる求人が量、質ともに供給され始めると、「3年3割辞める」にも変化が生じる可能性がある。
筆者の「3年3割辞める」に対する予想は次のようになる。
ここで一つ興味深いデータを紹介する。経済産業省が設置した「未来人材会議」で提出された資料の中に、「労働市場の流動性」と「労働生産性」に正の相関関係があるというデータがある。
ちょっと言葉が難しいので補足すると、次のようになる。
なぜ労働市場の流動性が低いと生産性も低くなるのか、次のような要因があると考えている。
筆者としては、自分自身が3年で辞めており、3年以内で辞めた人材向けの就業支援を10年以上取り組んできたことからも、もう少し市場流動性が高まり、何度でも人生がやり直せる世の中になってほしいと思う。
総合的に考えて、「3年3割辞める」ことは悪い側面ばかりではない。早めに「転職」という経験を積んでおくことは、長い目で人生を見た際、プラスになるのではないかと考えている。安易に「3年で辞めて転職を」と言っているわけではないが、理由もなく「同じ環境で長く働くこと(変化することに消極的になる)」はネガティブな側面もあるのではないかと思う。