2020年は、未知のウイルスとの戦い、そして経済社会活動を維持するための社会のデジタル化が急速に進んだ年になったわけだが、この影響は人々の生活満足度にも顕著にあらわれている。
NRI(野村総合研究所)が日本で実施した生活者アンケートの結果を見ると、日常生活について「満足している」「まあ満足している」と答えた人の比率は、2020年3月の63%から12月の40%へと大きく減少した。
生活満足度を性別・年齢別に分解してみると、性別や年齢層で落ち込み度合いには大きな差がある。男性よりも女性の下落幅が大きく、年齢別でいうと中高年層の落ち込みが大きいことがわかる。日本人の生活満足度は、3月のグラフに示されているように、これまでずっとお椀型のようなカーブを描いていた。
つまり10代と60代の生活満足度が相対的に高く、30代、40代が最も低い、というカーブを描いていたのだが、コロナ禍によってそのパターンが崩されたことになる。
もう少し深く生活満足度を分析してみよう。
落ち込みを見せた2020年12月時点のデータだけに着目し、どのような要因が生活満足度に影響を及ぼしたのかを分析したところ、現在の所得水準や今後の所得見通しが生活満足度に大きく影響していることが確認できた。現在の所得水準が低い、あるいは今後の所得の見通しが悪ければ生活満足度は低くなる。
そして年齢が上がるほど生活満足度への負の影響が大きいことも確認できた。コロナウイルスによる生命への脅威は高齢者ほど大きいから、そのような健康面での不安が反映されているといってよい。他方、男女で生活満足度の有意な差は見られなかった。確かに3月と比較すると生活満足度の「下落幅」は女性のほうが大きいけれど、12月のデータだけを見るとわかるように、性別での差はほとんどない。
女性の生活満足度がコロナ禍によって大きく下がった要因はコミュニケーションにありそうだ。回答結果を詳しく分析してみると、「コロナ禍以前より対面コミュニケーションが減った」と回答している人ほど、生活満足度が低くなるのだが、こう答えた人の比率が圧倒的に高いのが女性だったのである。
次に生活満足度を逆の視点から見てみたいと思う。それは、コロナ禍を経験してもなお生活満足度が高い人はどんな特徴を有しているのか、という問いかけである。まず先ほどの裏返しになるが、所得は大きな要因の1つで、現在の所得水準が高い人、あるいは将来の所得見込みが明るい人の生活満足度は当然高い傾向にある。
そのほかに、生活満足度を高く維持している人の特徴として、ITスキルを多く保有していることが指摘できる。これは、先ほど指摘した中高年層ほど生活満足度の落ち込みが大きい、という点とも整合性がある。われわれの調査結果にもあらわれているように、若年層のほうが中高年層よりもITスキルを保有しているからである。NRIは、2020年12月に実施したアンケート調査で、回答者のITスキルの有無についても聞いている。表計算ソフトが使えるか、プレゼンテーション資料が作れるか、画像処理ソフトが使えるか、プログラミングができるか、ウェブページを作れるか、など9項目からなり、お金を稼げるレベルのITスキルを保有しているかを聞いている。
回答者をITスキルなし(9項目すべてのスキルがない)、ITスキル少(1~2項目のITスキルを保有)、ITスキル多(3項目以上のスキルを保有)の3区分に分けて生活満足度の分布を調べてみたところ、ITスキルが多い人ほど生活満足度が高くなるのがわかった。
ただしもう少し厳密に検証する必要がある。もしかするとITスキルが多い人は所得も高い傾向にあって、ITスキルではなく所得の多さと生活満足度の関係をあらわしているだけかもしれないからだ。そこで回帰分析を行うことで、所得水準や性別、年齢、対面コミュニケーション量の変化などほかの要因の影響を取り除いたところ、それでもITスキルが高い人ほど生活満足度が有意に高くなることが確認できた。コロナ禍を乗り越えるうえで、各人のITスキルが重要な役割を果たしたということだ。