日本から世界を驚かす会社が出ない根本的な事情

日本の経済界にGAFAMのようなリーダーがいないのはなぜ?(写真:metamorworks/PIXTA)

21世紀に入って以降、グローバル企業のリーダーの資質はこれまでの常識とは大きく変わりました。

20世紀の優れた経営者といえば、GE再興の祖であるジャック・ウェルチのようなイメージが典型例でした。厳しさと実行力、高い目標管理能力を兼ね備えた経営者です。

多数の事業を傘下に抱え、それぞれを率いる事業部長同士を競わせる。ダメな部門は売却し、その資金で新しい会社をM&Aする。そのようにしてGEは電機メーカーから脱却し、20世紀末には世界有数の金融コングロマリットに成長しました。

ところが21世紀に入って20年たった段階で見れば、資本市場でのGEの存在感は地に墜ちています。企業としてどのような未来に向かっているのかがわからない。直近の時価総額は820億ドル(約11兆円、2022年4月末時点)とソニーやNTTよりも小さな存在です。

21世紀のリーダーの条件は「イカれていること」

拙著『日本経済 復活の書――2040年、世界一になる未来を予言する』でも詳しく解説していますが、GEに代わって21世紀の資本市場をリードしてきたレジェンド級の企業トップの顔触れを見ると、21世紀を引っ張るリーダーの新しい共通項が見えてきます。

すでに引退したり死去した人を含めて名前を挙げていくと、

 ・スティーブ・ジョブズ(アップル)
 ・ビル・ゲイツ(マイクロソフト)
 ・ジェフ・ベゾス(アマゾン)
 ・ラリー・ペイジ(グーグル、アルファベット)
 ・マーク・ザッカーバーグ(メタ、旧フェイスブック)
 ・イーロン・マスク(テスラ、スペースX)
 

これらの企業の共通点は2つあります。1つはこの6社すべてが少なくとも一度は、20世紀には前人未踏だった時価総額1兆ドル(約130兆円)に近年到達した企業であること。そして、もう1つは彼ら6人全員がいい意味で「頭がイカれている」ことです。

その共通点以外は6人とも個性はさまざまで、人格者もいれば一緒に働きたくない人もいますし、老練で洞察力に優れた人もいれば若くてエネルギッシュな人もいます。

「頭がイカれている」という言葉はきつく見えるかもしれませんが、けなす意図はまったくなく、悪い意味で言っているのでもなく、むしろ褒めています。個性の差はあれど未来を描く発想がぶっ飛んでいるという点が共通している。21世紀のリーダーに必要なことは、「常識人の発想を超えた未来を描くことができる」という資質なのです。

ビル・ゲイツはマイクロソフトを世界一の企業に育て、現在ではビル&メリンダ・ゲイツ財団でイノベーションを加速する仕事をしています。主な関心としては、伝染病の撲滅や21世紀型の原子力開発の推進など誰も手をつけようとしていなかった領域に注目し、その分野の専門家を集めてリーダーシップを発揮しています。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスはトヨタ方式のカイゼンをインターネット通販に導入しました。世界最大級の注文をさばくために、当初は巨大な倉庫で低賃金の労働者に1日16キロを歩くような重労働を強いて、「ブラック企業だ」と世間から批判されていたのですが、すぐに「人が歩いて商品をピックアップするよりも、倉庫の棚が歩いてきたほうが早くピックアップできる」ことに気づいて倉庫の棚をすべてロボット化し、同時に重労働がなくなるという働き方改革も実現しました。宅配の際には再配達するよりも置きっぱなしにして盗まれた商品代金を補償したほうが安いことに気づき、置き配を導入します。

フェイスブック(現メタ)創業者のマーク・ザッカーバーグはSNS事業以外に、仮想通貨リブラを発行することでお金の未来を変えることを構想しました。彼の構想はイカれすぎていたために世界の中央銀行から敵だとみなされ、G20が全力でつぶしにかかりました。計画が頓挫したことで株価が低迷しているとはいえ、現代の通貨システムの矛盾をイノベーションで変えようなどと考えるのは、いい意味で頭がぶっ飛んでいる証拠です。