デイヴィッド・ルーベンシュタイン(以下、ルーベンシュタイン):今日の立場を得るまでの来し方について、お伺いしたいと思います。アラバマ州で育ちましたね。
ティム・クック(以下、クック):その通りです。メキシコ湾に面したモービルと、フロリダ州ペンサコーラの間にある、とても小さな田舎町です。
ルーベンシュタイン:高校時代はスポーツで鳴らした学生でしたか? それとも勉学に秀でていましたか? あるいはテクノロジーおたく?
クック:人に知られるほど何かに秀でていたかどうか、定かではありません。努力はしましたよ。成績もまずまずでした。幼いころ恵まれていたのは、愛情に満ちた家族に囲まれ、優れた公立高校制度のなかで育ったことでしょうか。これは大きな恩恵でした。正直に言って、今ではこれだけの恩恵が受けられる子どもたちはそういないと思います。
ルーベンシュタイン:その後、オーバーン大学に進みました。大学生活はどうでしたか?
クック:なかなか良い学生生活でした。本格的にエンジニアリングにのめり込みました。いわゆるインダストリアル・エンジニアリングですね。
ルーベンシュタイン:そしてIBMに入社します。
クック:ええ、まず生産ラインの設計を担当するプロダクション・エンジニアからスタートしました。当時はロボット工学が大きく成長し始めたころで、私たちも自動化に着目していました。必ずしもうまくいったとは言えませんが、ロボット工学から多くを学んだのは事実です。
ルーベンシュタイン:そこに12年在籍し、次に移った会社がコンパックです。当時コンパックは、パーソナルコンピュータの製造分野では大手企業の一角を占めていました。
クック:業界トップでした。
ルーベンシュタイン:そこで6カ月ほど経ったころ、スティーブ・ジョブズ本人から、あるいは彼に頼まれた人物から電話があって、こう言われるわけですね。『アップルに来ないか』と。コンパックに比べれば、アップルはまだまだ小さな会社でした。なぜ面接を受けてアップルに移ったのでしょう?
クック:良い質問です。当時スティーブはアップルに復帰し、どうにか経営陣を入れ替えようとしているときでした。私は、『これは業界の先駆者と話ができる絶好の機会だ』と考えたのです。
スティーブと会ったのは土曜日で、数分話をしただけで『一緒にやりたい』という気持ちが湧きあがってきました。衝撃的でしたね。彼には、それまで会ったどんなCEOにもない目の輝きがありました。みなが右に曲がっていくのに自分は左に曲がろうとする–––彼はそんな人物でした。話を聞くと、彼がやっているのは誰もが考える一般的通念とはまったく異なることばかりです。
多くの経営者が、無駄に経費ばかりかかる消費者マーケットから手を引こうとしていました。でもスティーブはまったく逆です。消費者に対するサービスをより強化しようとしたのです。彼の話だけでなく、彼の問いかけも普通の質問とは異なるものでした。面談を終えて帰るころには、私の気持ちは決まっていました。『本当にこの会社で働きたい。なんとか採用してくれないだろうか』ってね。