大学に入学したのはずいぶん遅かったですが、日本文化を通していろんな視野が広がったし、大学の4年間はとても貴重な体験だったと思います。そして一生をかけても回りきれないほど素敵な場所がたくさんある日本を、あらためて大好きになりました。
――大人の学び直しは、スケジュール調整が大変だったのでは。
私より、仕事をたくさんしながら大学を卒業している、芸能界の方々もいます。そのほうがよっぽど大変だったと思いますよ。若くて体力があるからかもしれませんが尊敬します。私は事務所や、周りの仕事関係の方々にご理解いただいて、それほど大変ではないスケジュールで通うことができたので本当に感謝しています。できるときにやりたいことに挑戦してみてよかったと思います。
――映画『ツユクサ』のお話も。小林さんが演じた五十嵐芙美は、気の合う職場の友人たちと海辺で手作り弁当を食べてほっこりした時間をすごしたり、うんと年の離れた親友の少年と心温まる関係を築けるような人物です。丁寧な暮らしをしている印象を受けました。小林さんが共感できたところはありますか。
芙美の暮らしは、作中ではそれほど多く描かれていないんです。ただ台本を読んだとき、テレビや音楽をつねにかけているという雰囲気ではないと思いました。私もそこは同じかな、と。それが丁寧な暮らしにつながるかどうかはわかりませんけど。
若い頃は家でもよく音楽をかけていましたけど、最近は無音の暮らしを楽しんでいます。テレビやラジオをつけず、無音の自宅にいると心が落ち着くんです。シーンと静まった空間にいるのが一番、居心地がいいというか。
テレビのニュースも普段はあまり観ません。観るとしたら、天気予報程度。ニュースは、不安になるような情報をメインに伝えてくるじゃないですか。そういう現実から目をそらすという意味ではなく、重大なニュースは今はスマホやどこかから嫌でも耳に入ってくるし、自分からわざわざ不安になりにいかなくてもいいのではないか、と思うようになりました。
そのほうが、心穏やかに暮らせるな、というのが今の心境です。きっと芙美もそんなふうに暮らしていそうだなと。ネットやスマホもあまり気にしていなさそう(笑)。
――ですが、芙美はお酒に依存して断酒会に参加しています。小林さんが依存しているものがあれば教えてください。
私は甘いものが大好きなので、「食べてはいけません」と言われたらつらいです。芙美さんがお酒を港に捨てるシーンがあるんですけど、好きなものを断つのは相当な覚悟がいるんだなという、想像はできました。私自身は普段、お酒を飲まないのですが、甘いものをお酒に置き換えるとその辛さがよくわかりました。
甘いものといえば現場では、共演した松重(豊)さんとも食べ物の話をよくしていました。松重さんも、美味しいものがお好きなんです。美味しいお店もたくさんご存じで、ご自身も畑をされているとか。私も菜園に興味があるので、畑をやっていて楽しいことや、苦労話をうかがったり。「餃子の皮はここのが美味しい」とか、話は食べ物のことばかりでした(笑)。
――松重さん演じる篠田吾郎と芙美の関係は、大人のラブストーリーに進展します。
恋愛作品はほとんど演じてこなかったので、完成作を観たときは正直、照れくさかったです(笑)。芙美さんと吾郎さんのような、あんな出会いから恋が始まることもあるんですねえ。
芙美は、1億分の1の確率といわれる、隕石とぶつかる奇跡的な経験もします。でも奇跡って実は、みなさんの周りにもたくさん存在していると思うんです。
私は1匹の猫が私のもとに来てくれたことが奇跡だと思っています。普通の暮らしの中にも奇跡はある。そして、苦難に見舞われてもそれを粛々と乗り越え、自分らしく生きていく。そんな芙美に共感していただけたら嬉しいです。